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第二部 経済・社会を変える

第八章 活力ある社会をつくる

会社人間はもう不要


  しかし、これまで日本的雇用制度を支えてきたいくつかの条件も、これからの日本ではもはやありえなくなっている。
  まず第一に大切なのは成長率である。
  ある説によれば、終身雇用を支えてきたのは高度成長だったといわれる。高度成長で企業が一本調子で成長してきたため、企業は人を解雇する必要がなかった。しかし、これからは市場開放、規制緩和によって企業の競争がますます厳しくなる。経営全体はそこそこ成長したとしても、その中で個々の企業が永続する保証はますますなくなってくる。その結果、終身雇用はますます維持しにくくなるだろう。
  また、企業組織の成長とともに、管理職のポストも増やすことができ、年功制度は維持されてきたが、高度成長が望めないとなると、企業の成長が期待できなくなるばかりか、たとえ企業は成長しても組織の拡大は望めない。したがって、管理職のポストが年々増えていくことにはならないだろう。
  もう一つ重要なのは人口構造の変化である。これまではピラミッド型の人口構造のもとで若い人たちをいくらでも安く採用できた。それゆえに年功賃金制度が維持しやすかった。
  たしかに、前述の長期収支勘定の理論によれば、一人の個人の入社から定年までの収支勘定であり、その限りでは人口構造の変化とは関係がない。しかし、実際の企業では、中高年の人たちが若い時代に企業に貸し付けた分以上の高賃金を支払っている。その資金は現在の若い世代による企業への貸付分である。したがって、中高年の高賃金は若い世代からの移転所得といえる。
  これが成立するには、企業内で賃金の安い若い世代が中高年世代より数の上で多くなくてはならない。しかし、これから若い人口が減ってくるとなると、もう、こういったカラクリは成立しないのである。
  第二に、企業に依存するほかにない人々は、企業内でも能力を発揮する場所がなくなってくるということだ。
  典型的なホワイトカラーは、大学を卒業して大企業に入社し、様々な職場をローテーションして、その会社での仕事の進め方のノウハウを習得する。特に大切なのは社内人脈の蓄積であり、根回しのコツである。そして彼らは管理職になる。
  しかし、今やこうした企業内管理職の能力は必要度が低下している。競争のあり方自体、量から質へ転換しているときに、大きな組織を動かす管理職の機能は相対的に重要でなくなってくる。また、企業内の情報革命によって、情報の仲介機能としての中間管理職の役割は、パソコンなどの情報通信機器の発達によって小さくなっている。
  むしろ、経営トップと各担当者の間で情報を歪めかねない介在物はない方がよいということで、中間管理職は無用であるという見方さえ出てきているほどだ。これからの高度化された産業社会においては、新しいアイディアを出せる創造力ある人、この道なら余人をもって代えがたいという専門能力をもった人を企業は必要とする。
  また、会社の中しか知らない人間は、会社としても使えない人間になってきている。自由時間を楽しんだことのない重厚長大産業のサラリーマンがレジャーや生活関連産業に出向を命じられて戸惑っている姿をよく見かける。また、社内に優秀な会社人間をたくさんかかえる大企業が、脱OLの作った市場調査会社を頼りに新製品開発を行うといったことも珍しくない。

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