政局における政策遂行の要諦
 

[2010.9.6]
 鳩山前総理の残任期満了に伴う民主党代表選挙が、いよいよ9月1日からスタートした。党内では菅総理と小沢前幹事長が直接対決して、党内が対決の構図となり、やがて分裂の危機に陥ることを恐れる人々も多く、鳩山前総理を中心として話し合い解決がぎりぎりまで模索された。しかし密室政治や談合は民主党らしくないとの菅総理の強い意向が働いたようで、2週間の修羅場をくぐることになった。
 時あたかも、外為市場における円の独歩高に歯止めがかからず、輸出部門のデプレッションに嫌気をさした内外の投資家が売りを先行させて、8月末にはついに日経平均株価を9000円割れに追い込んでしまった。政界や経済界からは、このような危機的状況のとき、2週間も政治空白を生じることは日本経済にとって好ましくないとして、批判の的になっているのは、むしろ当然のことと思う。
 自民党政権時代にも実は同様の状況を経験している。しかしその際は官僚機構が正常に働いており、多少与党政治家が政局にかかずらわっていても、何とかそれを官僚がフォローしてくれていたので、政策の継続性が保たれていた。もちろん「官僚依存」との批判を受ける状況でもあったわけだが、必要最低限のことは官僚機構が役割を果たし、新たな政策や従来とスタンスを異にする政策の実行に当たっては、当然政治家の受任を必要としていたことは、言うまでもない。
 現在の民主党政権は、「官僚依存からの脱却」や「政治主導」を標榜するあまり、極端に官僚の政策関与を嫌う傾向にある。そうなると今回のような党内政局が始まってしまうと、責任を持って円高対策をはじめ緊急経済対策を遂行する人間や部署がなくなってしまうのだ。ここに民主党政権の危うさをはっきりと見ることができる。「官僚依存」は避けるべきだが、官僚との対話をしっかりと行い、政治と行政の役割分担をきちんと果たすことが、いま民主党政権にとって最も重要である。私には、いまの民主党にこのような芸当が出来る能力も経験もないと思われる。


岐路に立った民主党政権
 

[2010.8.30]
 先週のこのコーナーで、私はいまの菅政権が、急激な円高を抑え込む力量と迫力に欠けると断言しました。その後の総理や仙石官房長官や野田財務大臣の発言を聞いていると、益々その考えが正しいと確信せざるを得ません。円高は日本経済全体を破壊していく病ですから、いまの段階から明確な為替介入や、円高対策のための緊急経済対策をパッケージで国民に示すべきです。そうでなければ、菅総理が政府の目標として掲げた「国民の不幸を最小限にする」ことに反することになります。
 ところがこの10日あまり、マスコミを賑わせているのは民主党代表選挙です。菅総理が采配を振った参議院選挙に大敗してから、総理としての資質が問われる状況になりました。小沢前幹事長を支持する民主党議員からは、「この難局を救えるのは小沢さんしかいない」として、同氏の出馬を強く希望しています。このままいけば民主党代表選挙はがっぷり四つの戦いになり、選挙結果によっては分裂含みとなるかもしれません。
 このような政局がらみの動きは、我々野党側から見ても、国民的にも大変関心が強いのですが、実は様々な弊害も指摘されます。それはまず、国民の生活を左右する円高という大問題に対して、政府・与党内の取り組みが疎かになりがちということです。現にその影響が出始めています。さらには国民の関心が代表選挙のみに行ってしまい、政治の重要な役割についての認識が希薄になることです。しかしいずれの問題も、マスコミが冷静に報道し、代表選挙以外の重要な政治問題が存在していることを、しっかりと踏まえた報道を心がければ、相当現状は是正されるはずです。マスコミの良識に期待しなければなりません。
 菅総理が総理の座を確保できるのか、小沢前幹事長が民主党の「最終兵器」として、悲願のトップの座を奪うのか、いまの段階では全く読めませんが、一方で野党第一党である自民党の陰が大変薄いことが気がかりです。かつて我々が政権を取っていたときは、総裁選挙あるいは総理大臣の交代の時には、いまの民主党と同様、いやそれ以上の騒ぎがありました。「野党の悲哀」をあらためて感じるところですが、いま我々がなすべきことは、あえて円高や景気対策など政策問題を政府にぶつけていくことしかありません。
 民主党はともかく、自民党の奮起をいま何よりも望まれます。


円高を抑えられないのか
 

[2010.8.23]
 先日の参議院選挙あたりから、外国為替市場は段々円高が進んでしまいました。1ドル85円を切るという水準は、ここ十数年来の異常な状態であり、日本人が海外旅行するときは円高のメリットを享受することになりますが、一方で輸出関連産業が大きな打撃を受けて、経済活動全体の足を引っ張ります。
 去る8月16日に発表された今年の4−6月期成長率は、前期に比べてわずか0.1%、年率換算でも0.4%と、かろうじてプラス成長を維持した格好です。明らかに景気回復は減速しています。特に個人消費は冷えてきており、エコカー補助金・減税制度や家電製品のエコポイント制度の近々の廃止も目前に控えているため、個人消費の先行きは明るくありません。これに今回の円高不況が加わると、今年後半の経済成長率はマイナスになる可能性もあります。
 今回の円高の理由は、実はあまりはっきりしていません。世界経済の牽引力として期待されてきたアメリカの景気が、最近の失業率など経済指標の発表によって、減速傾向がはっきりしてきたこと。またヨーロッパはギリシャやスペイン、イタリアなどの財政・金融不安からまだ完全に癒えてなく、相対的に経済が安定している日本の円が買われているということのようです。しかし私たちはこのことで喜んではいけません。日本の「安定」といっても極めて弱含みですし、円高は必ず不況をもたらすからです。
 ところでこの円高に対して、今の政府は明確な対応をしているでしょうか。私にはほとんどその証拠が見えません。菅総理は旧盆休み明けになって、ようやく現在の円高水準に懸念を表明しましたが、タイミングは明らかに2週間遅れています。また市場に対するメッセージとしては、極めて弱すぎます。「今後、日銀とよく相談する」という言葉は、いまや「静観する」と同義語だと、市場からは受け止められるでしょう。「最早現在の円高は容認できない」と、はっきり言うべきでしょう。
 私はかつて宮澤内閣において経済企画庁長官をつとめましたが、宮澤総理からは「毎朝・毎夕、為替相場を緊張してチェックするように」との指示を受けました。景気の番人としてこれはむしろ当然のことですが、菅内閣そして荒井経済財政担当大臣には、このような緊張感を持ち合わせているのでしょうか。
 民主党政府の多くの人々は、9月14日の代表選挙のことばかり考えているとしか思えません。新しい代表そして総理大臣が決まるまでは、本格的な円高対策や景気対策が出来ないというのでは、日本経済は死んでしまいます。いい加減に目を覚ましていただきたいのです。


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