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第二部 経済・社会を変える

第七章 国民のための行政にする

官僚を政党の政策スタッフの補給源に


  こう考えてくると、官僚の能力発揮の場は政府の中に限る必要もない。自民党永久政権の下では、いつでも官僚機構が与党の知恵袋になってくれた。
  しかし、これからの政治は各政党がそれぞれ自前の政策を掲げて選挙を戦うようになるし、また、そうでなければいけない。政権を手放して野党になったからといって政策の勉強を怠っていては、与党の打ち出す政策に対案を出すことも出来ず、かつての社会党のように、万年野党になってしまう。野党といえども、いつでも与党になれるだけの心構えと準備が要求されるのだ。
  それには、各分野の政策に精通した専門家を揃え、副大臣や政務審議官をいつでも出せる体制を構築するのが理想だろう。そのためには、かなりのスタッフも必要だし、政策立案のためのシンク・タンクのようなものも必要になってくるはずだ。
  これを官僚の側からみればどうか。これまでは、自分の考えが役所の方針と合わないと、志を生かすのは極めて難しかった。役所の中で出世して全体の方針を自分の考えに合わせるか(ゴルバチョフ型)、役所を飛び出して政治家になり、世論に訴えるか(エリツィン型)、二つの方法しかなかったが、前者には長い時間がかかり、後者はかなり見込みが薄い方法だった。
  そのため、多くの場合は自分の考えを捨てて、役所の方針に迎合するしかなかったのである。
  たとえば、不況時には赤字国債を大量に発行して積極財政政策を探るべきだと思う者が大蔵省にいても、その考えを生かす道は塞がれている。口に出せば肩身の狭い思いをするだろう。郵政省の行う事業は全面的に民営化するべきだと考えている者でも、同じような思いをしているだろう。
  新制度では、政権与党と役所が一体となって進めている政策に不満のある者は、思い切って飛び出して、自分の政策を野党に売り込むことができる。政権交代が起きれば、晴れて自分の政策を実現できる。今後の政党は、政策の立案ができるスタッフを必要とするのだから、官庁はそのための人材補給源となるだろう。
  政党のシンク・タンクに官僚出身者を入れるというやり方は、副大臣・政務審議官制と同じことを狙っている。しかし、正面から政治家になるということは、向き不向きがあるだろう。官僚の中には、あくまで黒子に徹する方が性にあっているという者がいる。そういう向きには、政党のシンク・タンクで政策立案をする方が合っているだろう。A党は創意工夫の余地の大きい活力ある社会を理想とし、B党は弱者に優しい温和な社会を理想とする、というような色分けができてくれば、誰もが能力次第で志を生かせる道筋が開かれるのである。
  ここに書いたようなことは、いたずらに官僚批判を繰り返すマスコミには受けが悪いかも知れない。しかし、問題の根源は、各省庁が運命共同体になり、独立した生きもののように日本社会を仕切っているという構造にあるのであって、その中で働く個人にはない。日本の官僚はよくいわれるとおり優秀で、資質も優れている。その点を率直に認めた上で、彼らの力を最大限に生かす方策を考えるのがベストだろう。
  彼らが個人として能力を発揮できるようになれば、省庁ごとに独立割拠するという今の体制は、音を立てて崩れるはずだ。これまで省庁の再編論議は、組織を改革することに主眼をおいたため、二十の独立した「生きもの」の反撃にあい、失敗を余儀なくされた。しかし、そうした「生きもの」の存立基盤を一挙に根こそぎ取り払うような改革を行えば、「タテ割り行政」の弊害も緩和されるし、省庁の再編や組織改革もはるかに容易だろう。
  これは、見方を変えれば、埋もれた人材を発掘できるということでもある。これまでは、各省庁がそれぞれ人材を採用していたので、二十歳そこそこで入る役所を間違えると、当人にも役所にも悲劇だった。建設省には向かないが農水省には向いている、といった人材が自己評価を誤って建設省に入ってしまうと、農水省に転籍することは困難だったので、多くの場合は埋もれてしまうことになった。
  同じようなことはどこの役所にもあり、せっかくの人材を使いきることが出来ず、いたずらに埋もれさせたり、ひどい場合は、「肩たたき」で若いうちに外に出してしまう。しかし、そういうことは、日本社会全体にとってマイナスである。省庁の垣根がはるかに低くなり、政府の外に能力発揮の場ができるとなれば、そういった人材が埋もれることも少なくなる。

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