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第二部 経済・社会を変える

第七章 国民のための行政にする

中央官庁はパイオニア型行政に転換


  このように政治家や政党のウエイトが大きくなると、中央官庁の役割を見直す必要がでてくる。中央官庁はどういう仕事に専念すべきか。
  現在求められている行政とは、国民の生活がレベルアップして多様化したニーズや多元化した価値観に応えられるような、パイオニア型の行政である。それはおそらく、多分にリスクテイク的な行政にならざるをえない。
  中でも、相対的に軽んじられてきた、国民のニーズの充足、たとえば消費者重視といった分野などは相対的にウエイトが高くなるだろう。
  たとえば、日米構造協議の時に問題となった、大規模店舗の出店規制の見直しもその一つである。中小小売店の生活を確保するということから、百貨店や大型スーパーの出店はがんじがらめの規制で自由を拘束されていた。それでも高度成長期には、大手も中小も規制の有無に関わらず売上を伸ばしていた。この制度の中で、消費者を無視したある種の安定した棲み分け構造が出来上がっていた。
  ところが、低成長を迎え、小さなパイの分捕りが始まると、隙間産業に商売をとられるといった事態に直面している。二十四時間営業のコンビニエンスストアしかり、通信販売しかり、安売り専門店(ディスカウンター)は大変な勢いだという。いずれも消費者のニーズにあった安いコストの販売を徹底した成果である。
  現実が行政をとっくに追い越している。このことは、いくら消費者を無視して業者保護をやっても、すぐ無意味になることを示している。もはや、消費者を無視した業者保護行政は時代に逆行しており、早急に自由化すべきなのである。
  また、一定の生活レベルが達成されると、トーゴーサンのような不公平税制といった取り残された不平等の克服や、環境保全、エイズなど社会不安への対応が行政に求められてくる。高齢化対策も重要である。このように、現実に今のままのシステム、価値観では対応できないものが増えている。それは国内のみならず、国際的な環境の変化にもよっている。
  かつて日本を世界の加工工場にするという戦略を持ったことがあった。そういった生産重視型の世の中では、生産に直結する部分には政策的にインセンティブが与えられるシステムになっていた。
  たとえば規模のメリットを可能にするために、中小の部品産業の標準化を進めていった。工業会ごとに生産合理化のためのプランを出させ、それに参加する企業には金融・税制上の恩典を与えた。国際競争力をつけるためなら、政策上のインセンティブを何にでも与えた。その結果「系列」や「カンバン方式」といったものが奨励され、横行するにいたった。合理的でも透明でもない(第三者に閉鎖的である)場合であっても、である。
  しかし、通信・運輸の技術革新によって世界が小さくなり、世界の情報がリアルタイムで飛び込んでくる今、行政は世界的な視野で考えなければならない。冷戦構造が崩壊し、グローバルな経済競争が現実の姿となっている。合理性を追求しなければ、みすみす競争からはじき飛ばされてしまうのである。特定のグループに恩義があるからといって、よりコスト高の原材料を調達し、部品・機械購入をしていては、より安いコストで調達するものに破れるのは自明である。
  比較優位の原則はこれからますます重要性を増していこう。資本や技術・労働といった伝統的な生産要素に加えて、リースされた土地代、為替の変化といった点も考慮した競争力比較が行われるようになるであろう。もちろん、長期的な取引の安定性の確保、商品の共同開発という「系列」のメリットも比較の対象に加えられるだろうが。
  いずれにしても、「世界の工場」であり続けることは、もはやどこの国にとっても幻想でしかない。それぞれの国の特色を生かしてベストミックスを考えてモノ作りをしていかねばならない。

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