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第二部 経済・社会を変える

第七章 国民のための行政にする

地方分権と首都移転を同時にやれ


  実施部門、すなわちある種の現業的な行政は、極力地方に分権するか民営化させるべきだろう。地方にできることは地方に任せ、民間にできることは民間に任せる。
  いまさら国でなければ商売が出来ないというものはないはずである。時限立法によってでも国の直接事業を廃止すべきである。そうやって、民間の人々の創意工夫に委ねれば安上がりになり、サービスも向上する例は、国鉄などの民営化で実証済みだ。
  そうすることで、中央官庁は頭、つまり企画部門に徹し、持てる人材を有効に活用できるというものだ。経済の世界でのボーダーレス化が言われて久しいが、何もボーダーレス化は経済だけではない。こういった内外の変化に即応した社会づくりができるような行政を行わなければならない。
  そのためには、行政指導や通達など外部からは分かりにくい行政をやめて、海外の人々にも分かりやすいルールを作り、そのルールによって必要最小限の規制をはかるというルール型行政にしなければならない。
  その上で、私は、これからの行政の役割として次の二つを挙げたい。
  一つは日本の行政が世界のシンクタンクとなるよう位置づけることである。言い替えれば、国内外の問題を先取りする形で行政を行うということだ。この「問題先取り型」行政は、日本独自の行政課題のみならず、世界共通の課題を絶えず提示していく。あるいは、将来展望を長期的なビジョンの形で提示する、というものである。
  国内では他省庁の縄張りを侵すので評判は悪いが、外国でモテモテになっているのが通産省だと聞く。なぜかといえば、通産省は始終、いろいろなヒジョンを出す。最近では対外的なものにまで手を広げ、ロシアの民営化、中国の産業振興、ASEANの工業化などに日本の経験を売り込み、好評のようだ。このような行政を各省が競ったらよい。
  もう一つは、「問題処理型」行政である。現行の規則が将来の障害とならないか、必要最小限の規則の社会的妥当性を絶えず見直し、ルールの改廃を行う。またはダメージコントロールを透明な手続きの下で実行できるようにする、などがその任務として挙げられるだろう。
  このように中央官庁をスリムにし、より高度な役割を課す一方、地方分権を押し進める。
  先の通常国会で地方分権推進法が成立したが、あの時、新進党は自民党との法案の妥協に応じたものの、細川元首相らは反対して採決をボイコットした。反対したのは、主に地方事務官制度である。都道府県の社会保険事務所の職員は国から派遣された国家公務員だが、給料は地方自治体が払っている。そんな奇妙な制度はやめて、人件費予算もつけて地方に譲渡すべきだというのが知事経験者である細川氏の主張であった。そこが官僚の作文であやふやにされ、新進党も妥協してしまったため細川氏が怒ったわけだ。
  この気持ちは理解できる。ただ、現実の国会勢力図では自民党に対抗してひっくり返す力が新進党になかったのは残念である。
  地方分権と首都移転を結び付けてしまう、これが私の地方分権論だ。官僚から既得権を引き離すことは至難の技だが、首都移転の際なら不要な部分を切り捨てる行政改革と、地方に譲渡すべきものは譲渡する地方分権が一挙に実現できる。
  首都移転は行政改革とともに経済の効率化も期待できる。ただでさえ過密な東京では、時間的なロスははかり知れない。それが解消できれば、東京は経済都市としてさらに繁栄する可能性がでてくる。
  お手本はアメリカである。政治の首都ワシントン、経済首都のニューヨークという二つの大都市が存在することで、アメリカは極めて効率的な国家運営をしていると思われる。しかも、二つの都市が近い距離にあり、いい意味で都市間競争をしている絶妙な関係である。
  もちろん、アメリカだけでなくトルコのアンカラとイスタンブール、ブラジルのブラジリアとサンパウロなど世界には政治と経済を分けた都市機能分散政策をとっている国は少なくない。
  中央官庁の改革と東京一極集中問題が一挙に解決するなら、新首都建設に必要とされる十四兆円は安いものである。

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