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このIT革命がどういうもので、どう対処していけるのか。皆さんに1つ質問したいと思います。次の3つのうちどれを選びますか?
1. IT革命によって、日本の経済社会はすさまじく変わるであろう。
2. IT革命は重要だと思うけれど、はっきりいってまだピンとこない。
3. IT革命はそんなに重要ではないと思う。
これは私なりの問題提起ですから、ご自由に批判なさってください。私としては1.IT革命によってすさまじく変わると考えて対処せざるをえないと思っています。もう1つ、みなさんの中で日ごろ頻繁にインターネットを使っていられる方はどのくらいですか?―ありがとうございます。4割くらいの方ですね。日本の人口の中でインターネットを利用している比率は20パーセントくらいです。40パーセントというのはさすが問題意識が強いですね。
しかし大部分の方がIT革命を必要と答えたにもかかわらず、それでも6割の方は手を上げられなかった。私としてはこれが今の日本を象徴していると思います。みなさんこのままではいけない、なんとかかわろうとしている。しかしそのさいしょの一歩を踏み出せずにいる。
IT革命というのはパソコンの話ではない。本当の意味での生活革命、ビジネス革命だと思います。これはまじめに向き合わないと、自分の生活、ビジネスの基盤が音を立てて崩れていくこともありうる。またうまく対処したならば、金鉱を掘り当てたような大きなチャンスもある。だから「革命」なんだと私は思います。
アメリカの例ですが、1989年にソローという経済学者がノーベル化学賞を取った時に、演説で面白いことを言ったのです。「コンピュータはそこにある。しかし、生産性の上昇は見えない。」85年くらいからコンピュータのダウン・サイジングが進み、パソコンやワークステーションがどんどん家庭やオフィスに入ってきました。そこで多くの人がパソコンを使っている。それは事実として見えました。しかし、経済統計を見る限り、生産性などが上がったという証拠は見つからなかった。そこでこの言葉は「ソローのパラドックス」として知られるようになりました。
これ以降10年間、侃侃諤諤(かんかんがくがく)と議論してきました。本当にIT革命というのは経済を活性化していくのだろうか。私の知るかぎり、あめりかでこのIT革命がすさまじく経済を変えているということが、はっきと統計数値で確認されるようになったのは、97年くらいだと思います。わずか3年前。すごく大切な年になりました。興味深いことに、アメリカの株価はこの97年以降本格的に上がってきているのです。96年の終わりアメリカの株価、6千ドル台。97年に7千、それから2年間で1万2千ドル台までのぼりつめていく。この年にアメリカの商務省は「すごいことが起こっているぞ」といって、2つのことを国民に約束したのです。
第一に本格的にIT関連を中心とした統計を、本腰を入れて取り始めたことです。日本のような統計がないのです。第二にこれから毎年IT革命と経済がどうなっているのかということに関する年次報告を出して、国民に対して実態を明らかにしていきます。98年から報告書が出始めました。今年の白書は2ヶ月前に出され、日経新聞でも大きく報道されています。
99年度、日本経済はようやくプラス成長に戻ってなんとか0.5パーセント成長を達成しました。日本が0.5パーセントだった年、アメリカは約5パーセントの高い成長を遂げていました。この5パーセント成長のうち3文の1が、IT部門によって直接生み出されていることが確認されました。つまり、パソコン業界、ソフトウエア業界、部品業界、それらの部門の利益の増加が、経済成長の3分の1を占めるんです。この直接効果に間接効果が加わります。例えば、旅行代理店がインターネットを通じて予約のシステムを改善する。そして利益をあげたとする。これが間接効果です。間接効果を加えると、アメリカの5パーセント成長のうち6割が、ITによって生み出されたということが分かりました。
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