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生きた政治学ノートU
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(3)投票率の低下と投票方法について

投票率の低下傾向の理由―

 戦後の各種選挙の投票率が、一貫して下がり続けている。国政選挙では70年代〜80年代の70%台から現在の50%台へ、知事選挙や一部参議院選挙では同じく60%台から40%台、場合によっては30%台へと低下している。
 投票率低下の原因は、まず有権者の政治に対する無関心である。但し、無関心といっても2種類ある。誰に政治を任せても大丈夫だという肯定的無関心と、誰に政治を任せても何も変わらないという否定的無関心である。最近は後者の方が間違いなく増加している。
 次に各種選挙の回数が多すぎる点である。通常の国政選挙の他に、不定期に実施される補欠選挙、さらには統一地方選挙から日程がずれてしまった知事選挙や市町村長選挙、県議会議員選挙や市町村議会議員選挙などが、選挙の回数やタイミングを増やしている。平成14年から、国政選挙の補欠選挙は4月の第4日曜と10月の第4日曜の年2回に集約することとなったが、事態はまだ十分には改善していない。
 さらに小選挙区制度の導入で、有権者の選択肢が狭められたことも、投票率の低下に間接的に影響していると思われる。有力な候補者が2人しか出ない場合、有権者はA候補かB候補かのいずれかの選択肢しかなく、A、Bいずれも気に入らない場合は棄権せざるを得なくなる。中選挙区制度に慣れ親しんできた人々にとっては、なかなか頭の切り替えが出来ないのが現状である。

投票率の低下傾向をどうやって防ぐか―

 投票率の低下傾向は、民主主義の根幹を揺るがし、政治にきちんと民意を反映させられない恐れがある。これを防ぐためには、まず国民が政治に関心を持つこと、また政治家が国民の期待と信頼にきちんと応えられる活動を展開することが基本になければならない。
 第2には投票時間の延長が効果的である。平成10年6月から投票終了時間が午後6時から8時に2時間延長されたが、この時間帯に投票総数の約5%が投票しているとの調査結果もある。家族のレジャーなどで投票時間が遅れがちな若い人々には概して好評である。
 第3には不在者投票制度の簡素化である。平成10年6月の改正では、不在者投票の際の手続きが大幅に簡素化された。具体的には、公示日から投票日前日まで、市役所や役場の窓口で自分の名前、住所を記載する。投票日当日に投票できない理由を、所定の用紙に記載された選択肢を選ぶだけで手続きは完了する。しかし一方で身分証明書の提示や印鑑も不要なため、本人確認が簡単過ぎて本人成りすましといった事故が発生するのではないかとの懸念がある。また不在者投票を組織的に呼びかけて、恣意的に投票率を高めようとの動きも散見され、自由投票の観点からはあまり好ましくない光景も見られる。
 第4に選挙権の行使できる年齢を、20才から18才に引き下げてはどうかという動きである。大学生の「モラトリアム」精神を是正したり、若者の政治に対する責任を自覚してもらうためにも、ひとつの有効な手段である。実際に秋田県岩城町では平成14年9月29日に、正規の選挙ではないが市町村合併の是非を問う住民投票で、有権者を18歳まで引き下げた。この動きは徐々に全国に広まる気配を持っている
 第5には投票行動と公的なメリットをリンクさせてはどうかというアイディアである。例えば一定の期間に一定以上の回数投票すれば、所得税を一部減額することや、交通違反の減点数を一部減らすことなどが考えられる。一定の効果は期待できそうだが、果たしてそこまでして投票率を上げる必要があるのか、大いに疑問の残るところだ。
 第6は、より根本的な対策だが、中・高校生の時代にきちんとした政治教育を行うことである。明治時代に我が国の「青年団の父」と呼ばれた田澤義舗は、不偏不党の政治教育の重要性を唱えて実践したが、その遺志を継ぐものはいなかった。戦後の学校教育では、社会科の中に「政治経済」や「公民」を設置して、公教育として政治の仕組みを教える授業を展開している。しかしここでは知識としての政治システムを教えるが、様々な形で政治に参加し、自らの生活を改善して行こうというような、実践的な政治教育の場とはなっていない。


(4)在外投票制度と電子投票制度

在外投票制度の導入―

 国際化社会の進展によって、外国で生活する日本人有権者は、約80万人に上っている。しかしこれまでは日本の選挙において投票出来ず、従来から投票したいとの要望が政府や政党に寄せられていた。最近の在外公館の整備や郵便事情の改善などから、ようやく「在外投票制度」が検討されるようになった。
 実際には平成12年6月の衆議院総選挙から実施されたが、投票方法は各国に置かれた日本の在外公館(大使館、領事館など)に出向いての投票が原則だが、遠隔地などやむをえない場合は、日本への直接の郵送も可能であるし、帰国しての投票も認められている。在外の有権者の選挙人登録は、出国する直前に住民票を置いていた市町村(最終住所地)で行なうことが原則となった。

在外投票制度の問題点―

 在外投票は、在外公館が個人名投票の煩雑さにまだ対応できないことなどにより、当面は衆議院と参議院の比例代表選挙のみに限定されている。しかしいずれは、衆議院の小選挙区や参議院の選挙区にも投票できるようにしなければならない。また依然として郵便事情の悪い遠隔地が存在し、投票できない在外有権者も少なくないが、このような人々に対する救済措置を早急に講じる必要がある。

電子投票制度の導入―

 「電子投票制度」といわれるものには、投票所に設置されたタッチパネル式の投票画面で投票して、その集計を電子的に処理するという「電磁的記録式投票制度」と、各家庭の端末機に投票意思を入力して、ネットワークを経由して選管に電子的に投票結果が集計されるという、いわゆる「インターネット投票制度」がある。

*実際に前者の方法ですでに選挙を実施した自治体は、平成14年6月23日に実施された、岡山県新見市の市長と市議選であった。

 しかし前者の方法は有権者が投票所に出向かなければならず、投票のわずらわしさはなお解消されない。究極的には後者のような制度にすべきであるが、現在のネットワークを担っているBSデジタル方式やISDN回線では容量が不足気味で、光ファイバーによる双方向大容量のブロードバンド方式が全家庭に普及されることが望ましい。またネット取引における電子認証制度と同様に、電子投票においても本人確認のシステムを確立して、「なりすまし」などのトラブルを未然に解消しなければならない。

電子投票制度のメリット・デメリット―

 究極的な電子投票制度が普及した場合、メリットとしては有権者が自宅から投票できるため、投票率がアップすることが十分予想される。また選挙の機会が比較的容易に取れるため、特定のテーマについて住民の意思を問う「住民投票」を、頻繁に行うことが可能となる。
 一方デメリットとしては、住民投票などの乱発によって、個々人の意思がしばしば行政によって問われる事態が考えられ、住民のわずらわしさや圧迫感が増す可能性がある。各自治体の首長は何を住民投票にかけ、何をかけないか、十分に精選しておく必要がある。


Coffee Break U

構造改革か、景気対策か?

 小泉総理が必死に取り組んでいる構造改革とはどういうものか?第一には国・地方が抱えている700兆円に上る財政赤字をこれ以上増やさないこと。当面は年間の赤字国債発行額を30兆円以下に抑えることである。そのため公共事業費やODA予算など制度の改革にまで踏み込んで歳出削減を行なうことが肝心である。
 第二に財政投融資資金に加え、膨大な国費を投入している特殊法人の廃止や民営化、あるいは業務の縮小を目指すことである。石油公団の民営化は進んだが道路公団の民営化については自民党道路族との攻めぎ合いで難航しており、住宅金融公庫や商工中金などはほとんど議論が進んでいない。
 第三は民間活力の活性化である。そのため民間企業は不採算部門の切り捨てや余剰人員のリストラを進めるほか、民間企業や銀行が抱える膨大な不良債権を早期に処理して、元気な企業活動を取り戻させることを目標とする。

なぜ小泉総理は構造改革路線を突っ走るのか?

 それは過去10年間、本予算は言うまでもなく、5回も6回も補正予算を組んで総額100兆円も景気対策に注ぎ込んで来たにもかかわらず、GDPはわずか1%しか伸びてこなかった現実があるからだ。ばらまき予算編成はやめて、本当に経済基盤をしっかりさせる構造改革を断行して、一時的にはマイナス成長を経験するかもしれないが、その後は年率1.5%以上の経済成長が見込める路線を選択した。これが「構造改革なくして景気回復なし」の精神である。

小泉構造改革の問題点

 構造改革は、当然のこととして企業倒産やリストラなど、国民に一定の痛みを与えるものである。したがって改革期間を明確に設定し、ズルズルと引き伸ばさないことが肝要である。小泉内閣は今後2年間をその期間としているが、守られる保障はなく、国民の不安をあおる原因となっている。
 また株式市場は連日、バブル崩壊後の最安値を更新したり、商業地の地価も年間で10%マイナスになるなど、足元の経済の体力が大変弱っている。これは逃げ水を追っている状況と同じで、不良債権を必死で処理しつつも、一方でどんどん増えていることを意味する。改革を続行するにはある程度の体力が必要となるが、今の経済は必ずしも十分ではない。

構造改革と景気対策の両睨み

 構造改革をうまく進めるためには、明確に期限を切って、出来れば短期間を設定して、国民に我慢を求めることが必要である。またリストラや失業などを救済するセーフティネットを用意することはいうまでもないが、都市再生など効果的な公共事業をきちんと実施して景気を刺激し、経済の体力をある程度回復させることも重要である。本来政策とは複合的であるべきだが、今回の構造改革推進においても、やはり景気刺激策との連動が望まれる。小泉総理の一刀両断的で、政治的に分かりやすいパフォーマンスも大切だが、成果を上げるには両睨みの政策が必要である。

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