←本・エッセイのTOPへ
←前のページへ
次のページへ→

生きた政治学ノートU
4/8


2.選挙制度と民意の反映について

(1)小選挙区制度と中選挙区制度

中選挙区制度のメリットとデメリット―

 中選挙区制度とは、1選挙区から複数の当選者を出す制度である。特に人数が多い場合は「大選挙区」と称する場合もある。かつての衆議院総選挙では1選挙区あたり3名〜5名選出される典型的な中選挙区制度であった。現在の参議院議員選挙でも、選挙区選挙で2〜4名選出されるところは中選挙区制度である。
*衆議院総選挙では一時、一票の格差を是正するため、暫定的に2人区と6人区が存在したことがある。
 中選挙区のメリットは、複数の議員が当選することによって少数意見も救うことが可能で、いわゆる「死票」が少ないことである。したがって民意をかなり忠実に反映することが出来る。一方デメリットは、議会において多数を占め、政権を執ろうとする政党は、1選挙区で複数の候補者を出さざるをえない運命にあることだ。
 その際同じ政党同士が競い合うため、政策の違いではなく地元サービスの強弱や選挙資金の多寡によって競争する側面がある。また政党内の派閥活動を助長することにもなる。さらには有権者が自らの投票行動の中で、政権を選択しにくいことも中選挙区制度の限界である。

*衆議院選挙では3名〜5名の選挙区であったため、最大で5つの派閥ができるという俗説もある。

小選挙区制度のメリットとデメリット―

 小選挙区制度のメリットは、1人区であるために候補者を選ぶ行為が政権を
選ぶ行為とほぼ等しくなり、一票の価値が中選挙区制度より格段に高まる。また候補者個人中心の選挙でなく、政党中心の選挙が展開しやすい。さらには選挙そのものによって、自民党などの派閥を助長する可能性が低い。
 小選挙区制度のデメリットは、落選した候補者の票数が政治に生かされない場合、「死票」が多く少数意見が反映されない。また政党本位のため無所属の候補者にとって極めて不利な制度となっている。さらに与野党が拮抗する状況では、与党と野党の入れ替わりが激しくなり、政権の安定性が損なわれる可能性がある。

*落選した候補に投票した場合でも、それが批判票と受けとめられて、当選議員の政治行動に何らかの影響を及ぼすとすれば、間接的ではあるがその票は生きることとなる。また落選者が次回当選すれば、時間差はあっても前回の投票が生きることになる。したがって「死票」などというものは本来存在しないとする説もある。

中選挙区制度から小選挙区制度への流れ―

 このように中選挙区制度も小選挙区制度も一長一短ある。平成5年革命においては自民党内の派閥の弊害を除去する目的、また有権者が政権を選ぶ選挙を通じて二大政党政治を実現する目的で、小選挙区制度の導入が叫ばれた。二大政党政治は日本の政治決断のスピードを速めて、困難な課題に迅速に対応していく環境を提供すると考えられる。
 小選挙区の流れは、1980年代後半のリクルート事件の反省からスタートした。しかし当初は自民党の中でも、世論としても少数派に過ぎなかった。次第にマスコミの政治担当記者や多くの政治評論家、民間政治臨調(正式名称は政治改革推進協議会、故・亀井正夫会長)などが強力に後押ししたため、徐々にその勢いを強め、終いには怒涛のような流れに発展していった。これが自民党分裂や細川連立政権誕生を後押ししたことは前に述べたとおりである。

*小選挙区制度導入をめぐる一連の政治の流れに対して、筆者はある雑誌インタビューで「熱病のような…」という表現を使った。それは、政治改革を実現するために、小選挙区制度導入が唯一の手段ではなかったはずなのに、他の手段が取り上げられないか無視されてしまったこと。また本来、選挙制度にはメリット、デメリットの両方を抱えているにもかかわらず、小選挙区制度が万能であるかのごとく扱われる事態に違和感を覚えていたからである。その後、この発言が新進党内で問題視され、筆者の新進党離党を促すきっかけとなった。

小選挙区比例代表「並立制」では、二大政党制への移行は困難―

 平成5年革命をきっかけとして導入された「小選挙区比例代表並立制」は、極めて複雑な制度になった。すなわち、文字通り1選挙区から1人しか選出されない小選挙区制度からは300名が、残り200名が全国を9ブロックに分けた比例代表制によって選出される。さらに小選挙区から立候補した候補者が、同時に比例代表制にも立候補できるという「重複立候補制度」を導入したため、2つの制度が絡み合う「並立制」と呼ばれ、大変複雑な仕組みになってしまった。
 小選挙区制度では基本的に二者択一の選挙であるため、二大政党政治を実現する可能性があるが、比例代表制では少数政党所属候補者が当選する余地があり、なかなか二大政党体制になりにくい。本当の二大政党政治を目指すとしたら、小選挙区のみの衆議院選挙に移行することが必要である。


(2)比例代表制の問題点〜参議院比例代表制を中心に〜

選挙区選挙と比例代表選挙の「併用制」―

 参議院議員選挙は現在、各都道府県別に1人から4人の当選者が割り当てられる「選挙区選挙」と、全国を1つの選挙区とする「比例代表選挙」の併用によって行われる。参議院では2つの選挙制度が独立しているため、「併用制」と呼ばれる。選挙区からは146名、比例代表からは96名の計242名が選出されるが、3年ごとに半数づつ改選される。

「残酷区」と呼ばれたかつての参議院全国区―

 参議院選挙の比例代表区はかつての「全国区」の選挙である。全国を1つの選挙区として、有権者は候補者の個人名を書いて投票した。そのため候補者は全国を走り回り、その体力を極端に消耗するため「残酷区」と呼ばれたり、膨大な選挙資金を必要としたため「銭酷区」と呼ばれたこともある。またテレビなどのマスメディアに登場する著名人やタレントが、当選に大変有利となり、多くの識者から問題視されていた。

拘束名簿式比例代表制度―

 このような全国区の弊害を是正するため、昭和57年に「拘束名簿式比例代表制度」が導入された。まず有権者は、候補者名でなく政党名を投票する。各政党別の当選者数は、政党毎の得票数をドント方式により比例的に配分する。各政党は順位の定まった候補者のリストを、選挙公示の前までに提出しておくが、そのリストの上位から順番に、各政党に配分された人数までを当選者とする。
 この制度の導入により、金のかからない政党本位の選挙が実現すると期待されたのだが、少なくとも自民党の場合は、問題は解決していなかった。

名簿順位の決定の仕組み―

 すなわち、自民党が「拘束名簿」を作成する際、何らかの客観的基準に従って順位を決めなければならなかった。客観的基準とは、党員や後援会員を何人集めたかである。自民党も当初は新規党員2万人以上、後援会員100万人以上というのが名簿搭載の最低条件で、その多寡が順位とは無関係のはずだった。しかし多くの支持団体がしのぎを削るなかでの順位決定のため、実質的には最低条件ではなくなり、順位とリンクするようになった。一説によると、当選圏内といわれる15位以内を確保するには、新規党員10万人以上、後援会員200万人から300万人が必要になるという。
 自民党支持団体には、日本遺族会、軍恩連盟、立正佼成会や仏所護念会、霊友会などの宗教団体、日本医師会、歯科医師会、特定郵便局長会などの郵政関係団体、道路関係団体、全国土地改良団体連合会などの農林関係団体、日本保育協会などの福祉関係団体など枚挙に暇がない。彼らは団体の長や組織の幹部、あるいは所管省庁の役人OB・OGを候補者に据えて、順位争いをするケースが多い。このようなことがいわゆる「族議員」を助長することにもつながり、また多額の資金を要するため、KSD事件やオレンジ共済事件など金銭に絡む事件が後を絶たなかった。

拘束名簿式から非拘束名簿式へ―

 「拘束名簿式比例代表制」における順位づけ作業の問題点は、本来それぞれの政党の中で解決すべきことである。しかし自民党は自ら音頭をとり、問題解決をめざした法律改正を短期間で審議し、平成13年に実現させてしまった。
 それは「非拘束名簿式比例代表制」といわれるもので、有権者は政党名で投票しても個人名でも構わない。開票では政党名の票数と、個人名をその所属政党に読み替えた票数の合計から、政党毎の当選者数を比例配分し、当選者の決定は個人名投票数の多い順番に決める。拘束式のようにあらかじめ名簿搭載順位を決めていないので「非拘束名簿式」と称される。
 この制度では確かに、名簿に搭載する順位を決定する際の弊害を除去出来るが、個人名を書かせる競争がまた始まり、全国区の時と同じ弊害が発生する恐れがある。

このページのトップへ

←本・エッセイのTOPへ
←前のページへ
次のページへ→

HOME今後の予定はじめのOpinion政策提言本・エッセイはじめ倶楽部経歴趣味Linkはじめに一言

Copyright(c)1996-2003 Hajime Funada. All rights reserved.