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第三部 外交を変える

第九章 外交の五五年体制を超えよ

どんな世界秩序を日本は作るのか


  私は、日本の今後の外交のあり方として、二つの指針が必要だと思う。一つは、冷戦が終わった後の新国際秩序として、日本としてどういうモデルを想定し、その実現を目指すかである。
  冷戦が終わった直後に、各方面から新秩序構想が打ち出され、その後、どこかへ吹き飛んだ格好になっている。しかし十年、二十年後の新しい世界のあり方をどのような形にするかということに関して、それぞれの地域や国が提示しており、そのせめぎあいがすでに起きているのである。
  たとえば、中国では「新国際政治経済秩序」という、中国が目指す秩序構想を打ち出している。その裏側には、中華思想に裏打ちされた、中国を中心とした世界秩序ともいえるものが透かし絵のようにみえるのである。ロシアはまだ明確な構想を国として打ち出してはいないものの、そうした秩序構想を持っているはずだ。世界の主要国は、それぞれこうした秩序構想を持ち、その実現のために、国際舞台において競争するのである。
  では、日本にとって、どういう秩序構想が望ましいか。今後の世界がどうなるか、十年後を想定した場合、私は五つのシナリオが考えられると思う。
  第一は、冷戦体制のあとで「唯一の超大国」として残ったアメリカを中心とする国際秩序がほぼ維持され、これに対して世界の主要国および国連を中心とする国際機関も、おおむね協調的な姿勢をとることによって、世界秩序が維持される。
  これは、日本にとって最も居心地がよく、最小限の努力で新しい国際秩序に対応できるという利点がある。しかし、このような安楽なシナリオには暗雲が立ちふさがりつつある。
  それは、アメリカが内向きになってきており、外交における長期的視野が欠落し、その裏返しとして国内的な問題を外交の場にストレートに反映させるようになってきたことである。これが一時的な現象なのか、長期的に見て変更不能なものなのか、注意深く見きわめる必要がある。
  第二は、米ロ冷戦の復活だ。このシナリオでは、ソビエト体制崩壊後のロシアにおいて、民族主義者、保守派および共産党が合体して、もしくは連携することによって、強いロシアの再現を夢見る政権をつくり、国民に巧みにアピールし、国民の支持を獲得することに成功し、その路線に沿って経済政策、安全保障政策が展開される場合である。
  このように復活した強大さを求めるロシアは、ロシアなしに世界のいかなる重要な問題も決定できないという立場と発言権を求めることは疑いない。これは、西側諸国、特にアメリカにとっては到底受け入れ難いものと映る。そうなると、米ロ冷戦の復活となる。
  第三は、アジア太平洋の協調体制が進むことである。これは、アメリカを含め世界の約半分の面積を占める太平洋沿岸諸国、および全世界のGNPの半分以上を占めるこの地域の国々の間で、国際協調がうまく進展し、国際機関の協力などもあり、国際秩序が実現するというシナリオである。
  このシナリオは、体制を異にする中国、北朝鮮、ベトナムなどの社会主義国が、国際協調を国是とし、現状維持国家に転化する、つまり、革命の輸出などは全く興味を持たなくなる、という前提に立っている。
  アジア諸国のように政治体制のみならず、歴史、文化、言語、人種などの多様性と、民族的、文化的軋轢のある地域においては楽天すぎるといわれる面もある。
  第四は、東アジアの分裂・対立である。前者の逆であり、悲観的なものだ。しかも、アメリカが東アジアの秩序維持にほとんど関心を失い、影響力を行使しないという前提に立っている。
  特に中心となるのは中国とその周辺諸国との関係である。中国が統一を維持し、強大であればあるほど、周辺諸国はその中華思想的な発想に基づく政治、外交、軍事的な行為に対して反発を示すことになる。
  このような国際秩序は、日本にとって極めて重大な決断を要するものとなる。なぜなら、戦後的なアメリカ依存のぬるま湯から脱却して、自分の足で立たなければならないからだ。アメリカが東アジアから撤退し、国際機関も役立たないこのケースの場合、中国が統一を維持して強大であるとすれば、日本はASEANカードやロシアカードを用いる必要もでてくるだろう。中国が分裂したなら、東アジア全体がバルカン的様相を呈することになり、国際政治に不慣れな日本は、対応に困る場面が想定される。
  第五は、ロシア対周辺国家の対峙である。このシナリオは先に挙げた米ロ冷戦復活のケースに似ているが、アメリカが内にこもり、ヨーロッパおよび東アジアから撤退する点で異なる。その結果、ロシア周辺諸国は、単独あるいは連携して強大なロシアの政治的軍事的圧力と対峙することを余儀なくされる。これは日本にとって、基本的には第二次大戦以前の対ロ関係の再現を意味する。
  しかし、戦前のように日本が単独で満州に防衛線を進出させる必要はない。中国が対ロ防衛に必要な国力、経済力、軍事力をすでに保有しているからだ。したがって、安全保障面では、日中提携が考えられるほとんど唯一の対策となろう。
  以上、五つのシナリオのうち、どのシナリオが実現するかは今後の展開次第である。日本にとって最も望ましいシナリオは、第三のシナリオであると私は確信する。
  すなわち、アジア・太平洋で、現在進行中の国際協調がさらにうまくいくことである。もちろん、このシナリオには楽天的にすぎると批判される面があるだろう。しかしながら、外交とは、単に流れに身を任せて受け身的に対応することではない。とくに、アジアにおいても世界においても大きな存在である日本がそうであっては、周辺の国々に迷惑を与えることはあっても歓迎されることはない。
  理想を描き、それを公にし、追求の努力を続けることこそ本当の外交ではないだろうか。
  そのためにも、アメリカとの協調関係を大事にし、アメリカが内にこもることのないよう外交的な努力が必要なのである。

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