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第三部 外交を変える

第十章 民主・人権・市場の原則を貫け

普遍的な価値を追求せよ


  もう一つの指針は、日本はどのような普遍的価値を追求するかである。
  現在は国際協調が困難になっている。理由の第一は、冷戦構造が崩壊したことによって、西側先進国の連帯がゆるんだからだ。もともと、先進国が普遍的な価値として共有してきた民主主義政治のもとでは、政治は有権者に対して臆病である。よほどの非常時でなければ国民に対して命令しにくい。
  これまではソ連の脅威によって西側諸国は連帯の必要を感じ、各国民は、そのためのリーダーシップを政府に許容してきたのである。その脅威が消滅した。それを待っていたかのように、西側先進国のリーダーの支持率が低下した。これは、政治的なリーダーが国民に一定の方向を示すことが難しくなったことを示している。すなわち、国際協調が難しくなったことを暗示している。
  国際協調が難しくなる理由の第二は、文化や宗教、民族性などの違いが紛争や対立の原因になってきたことだ。イスラム原理主義や旧ユーゴの情勢はまさにこのことを物語っている。欧米では、文化がその枠を超えて国益の対立に発展する恐れがあると懸念されている。
  このようにみると、今後の国際関係は、より包括的、総合的な競争の時代になると思ってよい。
  総合的というのは、経済だけでなく道義、理念、あるいは世界に対する役割をきちんと果たしているか、正しい理想を追求しているかという面も含んだ競争という意味である。こういう競争の舞台では、ある程度は経済的なリスクを負ってでも、道義的により高い位置に立つことが必要になってくる。
  日本は幸いにも、西側先進国とともに、民主主義、市場経済、人権という普遍的な価値観を共有している。経済的なリスクを負ってでも、この普遍的な価値を国際舞台において追求することが、この総合的な競争に打ち勝つ道であり、国際協調を実現する最善の方法であろう。
  つまり、日本の外交は、一方で、東アジア・太平洋における国際協調を推進し、他方で、民主・市場・人権という普遍的な価値を追求するものでなければならない。
  では、日本単独でこの二つを追求することが出来るだろうか。いかなる国であっても、単独では不可能なことだ。どこかの国と連帯し、協力関係を結んで強力に推進する必要がある。
  具体的に、どの国と手を結ぶのが最良であろうか。それはアメリカである。
  私は、中期的に日米基軸外交しかないと考えている。
  もちろん、時代を反映した日米関係の変化は当然あってしかるべきだ。吉田、岸、池田、佐藤時代は無条件の対米追随路線だった。その後の中曽根時代は「ロン・ヤス」による個人の友情路線である。
  私がめざす日米関係は、共通の価値観や理念を分かちあえた上での同盟関係である。つまり、親分・子分関係より一歩進み、共通の秩序構想の実現をめざし、共通の価値観の追求を国際社会で協力して行う、そういう関係である。
  日米基軸の関係が、なぜ、そういう関係でありうるか。それには二つの理由がある。
  第一は、東アジア・太平洋における国際協調を実現するために協力する相手として最もふさわしいのはアメリカだということ。
  アメリカのクリントン政権が最も重視している地域はどこかといえば、アジア太平洋地域である。このことは間違いない。ブッシュ政権時代よりさらにアジアのウェイトが高まっている。
  ブッシュ政権が、かなり高いレベルでアジア太平洋を重視していると言明したのは、一九九一年秋、ベーカー国務長官(当時)が来日したときである。それまでのブッシュ政権はアジア太平洋の重要性について発言していない。当時は、ソ連の崩壊や東西ドイツの統合の問題に追われていた。
  それに比べると、クリントン政権はアジア太平洋に積極的にかかわっている。そもそも、大統領に就任して最初に外遊した先は東京とソウルである。そして、東京の早稲田大学、韓国の国会、それに、外遊前に行ったサンフランシスコでの演説は、それぞれ別の視点からアジア太平洋政策を訴えていた。
  もちろん、ヨーロッパおよびロシアに関して演説で触れたことはあるものの、私が知っている限りは、アジア太平洋に関するほど体系的なものではなかった。
  クリントン政権がこれほどアジア太平洋を重視するのは、この政権の内政重視と結びついている面がある。アメリカの経済を再建するためには、アメリカの対外貿易を活発にしなければならない。また、世界の平和という点を考えても、経済的なダイナミズムを持っている地域と交渉するのは自然なことであろう。
  こういうわけで、現在のアメリカは東アジア・太平洋地域に最大の関心を払っているのである。

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