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第二部 経済・社会を変える

第七章 国民のための行政にする

役所の情報公開を急げ


  これまで述べたことで分かるように、日本の社会が閉塞状況に陥り、なんとなく無力な感じにとらわれているのは、官による全国一律の規制、中央集権的な政策遂行が民間の自由を拘束し、その創造力の発露を抑えてきたからだ。これは、欧米に追いつき追い越せの高度成長時代では、効率優先ということで大きな力になりえた。しかしそれが今、人々を圧迫し、窒息させているのである。
  だからこそ、社会全体が何となく閉塞感におおわれ、何となく不満、という状況をつくりだしている。
  もちろん、このような状況を政治の力で一挙に改革することは不可能なことだ。主人公は国民であって政治家や役人ではない。しかし、少なくとも政治によって、人々の生活の舞台が作り替えられるきっかけを提供することはできる。
  どうするか。具体的には二つの処方箋がある。一つは、政府組織や政治制度を根本的に改革して、より流動的にすることである。そしてもう一つは、産業における雇用のあり方に変革を促して、労働者がより自由に活動できるようにすることである。
  要するに、固定化してしまいがちな現在の組織機構をより流動化し、政治家や官僚を含めて、人々がより自由により創造的に活躍できる場を提供することである。
  自由に活動できる透明な社会を作り上げる必要がある。
  このためには、まず先に取り上げた「仕切構造」を打破しなければならない。
  これは非常に難しいことであるが、どうしても実現しなければならない。そのためには、まず、役所の独占している情報を公開することである。すべての情報を官僚が握っている現状では、外部から政策を批判することは極めて難しい。情報公開法の制定はそのためにも急務だ。
  もっとも、情報公開の先進国であるアメリカでは、役所の情報に一般市民はあまり関心を持たず、情報公開制度を最もよく活用しているのは、同業他社の秘密を探ろうとする企業だともいわれている。しかし、実際に使われなくても、市民団体や研究者からの批判の目にさらされる可能性があるということは、政策を立案する役所に緊張感を与える。また、見過ごされがちだが、公文書館を整備して、作成後一定期間を経た書類はすべて公開することが必要だ。
「歴史の前に審判を受ける」という感覚は、責任をもって信ずるところを行うという気骨ある官僚に勇気を与えるだろう。また、こうした制度が有効に機能するには、文書主義を徹底することが必要だ。
  口頭でのやりとりにはそれなりのメリットはあるだろうが、決定過程が秘密に隠れやすいという決定的なデメリットがある。日本の官庁は、簡単なメモのやりとりでも記録に残すよう、意識を改めることだ。
  反面、これまで役所が好んで使ってきた審議会という方式には、あまり意味がない。本当に英知を結集するつもりなら、役所が人選するのではなく、国会の議席配分に応じて各党から推薦させるようにして、実のある議論をするようにすべきだ。そうしないなら、大方の審議会は廃止した方がよい。
  また、国会で一定以上の議席を持つ政党には官庁情報へのアクセス権を認め、政策の立案に役立てるようにすべきだ。その場合も、政党自身に政策立案能力がないと、情報が出たところで意味がない。五五年体制のもとでは、与野党が固定していたから、どの党も自前の政策立案能力を持つ必要がなかった。だが、これからの選挙制度の下では、政党相互の切磋琢磨は、政策によってなされる可能性を秘めているし、そうしなければならない。
  政党助成によって一定の資金も出るのである。それを政策立案に使わない、旧態依然の利益誘導型政党は没落するだろう。
  次に政府の仕組みを変える必要がある。
  歴代自民党政権の下でも、「タテ割り行政」の弊害が指摘され、そのための処方箋が作成されたことがあった。それは、一言でいって、省庁を再編成するということである。
  たとえば、予算編成権を大蔵省から剥奪し、内閣直属とする。あるいは、住宅問題を建設省から切り離し、住宅省にする。そういった構想にはいずれもそれなりの根拠があったが、どれも実現しなかった。影響を受ける役所が抵抗したからだ。
  自民党政権の下では出来なかったその種の改革も、今後の政治体制では、できるかも知れない。しかし考えてみると、全体の仕組みをそのままにして、いくら編成替えをしても、今とは別の「生きもの」が出来るだけであろう。もう少し別の面からアプローチしてみる必要がある。

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