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第二部 経済・社会を変える

第五章 官僚統制を完全撤廃

基本的ルールを海外と調整する


  金融の例で述べたことは、他の多くの分野でも同じことがいえる。
  たとえば、交通の分野(航空業、タクシーなど)では、行政がタクシーや航空機などの交通手段の地域配分から、料金にいたるまで、完全にコントロールしようとしてきた。タクシーでいえば、どの駅やどの空港には何台配車するか、個人タクシーは何台の枠を認めるか、各社にタクシーを何台認可するか、そして料金はどうあるべきか、などといったことをすべて行政が管理してきた。
  しかし、そういった行政による配給的なシステムは、利用者のニーズを十分に汲み上げたものにはなっていない。市場のニーズは大きく動くものであるし、人々の要求することは地域や時間帯によって多様なものだ。だから、そういった料金や供給量の規制は行わないで、もっと直接的な安全規制を行うべきである。
  たとえば、運転手の免許を一定期間ごとに審査するとか、非社会的な行為をした乗務員には厳しい罰則がかかるようなルールを設定するという方が望ましい。具体的ルールのあり方については多くの専門家の意見を待たなければならないが、現行の規制が安全な使い勝手のよいタクシーの供給になっていないことは多くの識者が指摘するとおりだ。
  航空の規制緩和については、そのあり方についてさまざまな論争がある。現状のままでは日本の航空業界が大きな困難に陥るだろうことは、多くの人が指摘している。この問題も章を改めて検討したい。
  金融、交通、農業、そして産業一般についても、日本の産業規制はすべて監督官庁が行ってきた。しかし、こういった省庁のタテ割りによる管理が、多くの問題をもたらしていることは、これまで指摘したとおりだ。すでに述べたように、そういった管理の強い産業ほど高コスト体質である。国際競争力が弱い。また、利用者に対しても十分に安くて良質な商品やサービスを提供しているとはいえない。
  いま多くの人によって指摘されているのは、こういった省庁によるタテ割り管理を弱め、独占禁止法、PL法(製造物責任法)など、より横断的なルールを利用すべきであるということだ。つまり、管理型の行政ではなく、ルールに基づいた経済政策的な対応が必要なのである。 
  考えてみたら、金融、交通、農業、構造不況業種に指定された製造業など、官庁の管理が強い産業では、独占禁止法に抵触するような行為が多くみられる。日本の経済は、独占禁止法のような一般的ルールから例外的な扱いを受ける分野があまりにも多すぎるのである。
  もちろん、業種によってそれぞれ特殊な事情があるので、すべて一般的ルールに基づくというのは不可能である。しかし、現状は業種ごとの特殊なルールに縛られすぎており、もう少し一般的なルールに移行していく必要がある。
  こういった行政の裁量からルールへの移行は、国際的にも強い要請を受けている。日本の行政組織がともすると海外から不透明でアンフェアだといわれることが多いのは、裁量的な規制に強く依存した日本の規制のあり方に問題があるからではないだろうか。
  インサイダーにとっては、裁量的な規制は、居心地のよいものであろう。業界の細かいしきたりや規制の運営の機微がわかっていれば、対応も容易となる。しかし、アウトサイダーにとっては、そういった規制は参入障壁になるし、差別行為と映る。
  社会が国際化していけば、ルールもできるだけ透明でなければならない。透明なルールであって、はじめて、海外との調和がはかれる。もちろん、性急に日本の制度を海外に合わせろと言っているのではない。日本に固有な制度があってもよい。ただ、少なくともそういった制度は、海外から認知を受ける必要がある。ルールの透明化はそのために最低限必要なことなのである。
  ルールの透明性を確保するためには、いろいろな措置が必要である。一つは、これまで述べてきたような省庁と既得権益者である業界だけの閉鎖的な管理システムではなく、消費者や海外の企業にも同様にオープンで、出来うるかぎり横断的な(つまり特定の業種に限定しない)一般的なルールに基づいた政策を行うべきである。
  第二に、そういったルールや企業の行動については、できるだけ情報開示するということだ。こういった努力は、企業だけでなく、政府にも求められる。インサイダーとアウトサイダーの壁をできるだけ作らないような努力が必要なのである。
  そして第三は、可能な範囲で、日本のルールと海外のルールとの調和をはかる必要がある。もちろん、日本のルールをすべて海外のルールに合わせるというのではなく、交渉のなかで両者の歩み寄りを行う必要がある。
  ガット、WTO、OECD、APEC、サミットなど、国際的な調整の場で、日本はそういった調整に積極的に取り組むべきである。そうした形で、世界のルール作りに積極的になることは、日本の対外戦略からも重要なことである。
  これまでの日本の対応は、海外から指摘されて最低限の修正をすることで済ませてきた。しかし、そういった日本の消極的な姿勢が海外からは保護主義的、閉鎖的と映ってきたのである。日本の制度をより開かれた透明なものにすることは、海外との関係を考える上でも重要な論点なのである。

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