< 財政構造改革について >
船田―私は経企庁長官を7年前にやって、あの時も14兆円の大型補正予算による景気対策をまとめた経験はあります。景気を回復させるための、いろんな刺激策が効いて、かなり効果が上がっていたと自負しています。しかしその後は、実体の経済が反応しにくくなっているという状況が続いていると思います。もちろん今回の補正予算はやらないよりやったほうがいい。しかし、公共事業だけやれば景気は良くなるという神話は棄てなければいけない。もっと考えなければならないのは、財政赤字が国、地方合わせて、680兆くらいになってしまっているという現実です。景気対策は堅実にやりながら、一方で構造改革をやり、景気の下がるところを押さえていく政策を、これから我々が政治の課題として重視していかなければならない。
日本人全体の預金残高が1300兆あり、そのうちの680兆ですから預金の半分くらいを国や地方自治体の赤字に貸している。お金は回っているんだからいいんじゃないかとか、国内で借金できるくらいだから日本は持つのではないかという話をされる方がいます。確かに、理論的にはそういうことも言えるかもしれません。しかし、ふたつ大きな問題があると思うんです。
一つは高齢化社会、それ以上に少子化社会が早い勢いでやってきます。日本人の人口もあるところまでいくと、今度は減少という状況がやってくる。われわれ個人のレベルで見ても、将来の年金が果たしていつまで持つのかわからない。介護保険制度はスタートしましたけれども、なかなか介護の認定などいろんな問題がありまして、老後が不安である。そうなると非常にお金がまわらなくなってきます。それからわれわれの預金が、どんどん将来目減りすることも考えられるのです。こうなると1300兆もあった預金がどんどん減ってくる。それに対して、国や地方の借金が680兆からどんどん上がってしまう。そうするとどこかでクロスするところがあるかもしれない。国としての破綻になりかねない。遠い将来のことではなくて、現実の問題としてそろそろ心配しなければいけないと思います。
もう一つはもっと身近なことですが、これだけの国、地方の借金を抱えていますと、毎年だいたい18兆円から20兆円近く利払いをしなければならない。そうすると、国の予算が大体いま80兆円ちょっとですから、国の予算の1/4は利息払いに使われてしまう。残り3/4だけでその時その時の国のニーズに従って、予算をつけていく。予算の自由度がどんどん減る。予算の硬直性ということが起こってしまう。これは非常に問題があると思っています。
森本―船田さんは若いから、将来国の赤字がどんどん増えて心配だとおっしゃいますが、私など余命幾ばくもないので将来の借金をあまり気にしない。来月くらいには生活が豊かになったほうがましだと思うんですけど。(笑)
船田さんが財政構造改革を大事にされるのなら、それをずっといい続けてこられたのは橋本さんですから、橋本派に入られればいかがですか?
船田―それはいずれまた、じっくり考えます。先生はそうおっしゃいますけど、私より若い世代は相当そういう将来の国の財政がどうなってしまうのか、不安に思っている。個人レベルでいえば、年金ですね。保険料も払い始めている人たちが、将来年金がもらえなくなったらどうするんだという一種の不安をもっている。ですから、これは世代間の負担の調整ということだと思います。30代後半より若い人たちというのは、年金の支給よりも掛け金の方が多く、持ちだし超過になるという計算です。われわれはどちらかというともらうほうが超過する。先生も多分もらうほうが超過すると思いますが…。
森本―いやあ、もらうまでに命が尽きるので、気にしていませんが。(笑)
船田―40代以降の我々はもらう方が超過しますから、安心して死ねますけども、40代前というのは、これは借金を抱えて大変になっていくのではと思っています。世代間の調整はやはりどこかでやらないといけない。その一つが財政構造改革であったり、年金の改革ではないかなと思います。
森本―僕はエコノミストじゃないからわからないけれども、日本の経済は目の前の景気をどうやって進行していくかということと、いわゆる財政構造改革をどうやって進めるかということはずっと議論されてきて、日本の政治を動かしてきたわけです。僕は今の政権だともう少し来年経済が悪くなって、その後立ち直れる状況を見届けることができないと、どうも財政構造改革には入れないのではないかという気がしてならないのです。
船田―それは、景気がよくなれば、自動的に税収は増えていくわけですから、それによって財政再建もある程度できるという理屈はあります。ただ、これだけの借金を抱えてしまっている。毎年赤字国債を何兆円と出さざるを得ない体質は、慢性の病気みたいなものであって、早めに財政構造改革に踏み出さないと、気がついたときには借金がさらにたまってしまう。ある程度のスピードを持ってやるべきものが、財政構造改革ではないかと思うのです。
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