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生きた政治学ノートU
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(3)中央集権から地方分権へ

変化と原因―

1.中央集権的な行政のお蔭で、地方都市はどこへ行っても同じような街並みしか見られず、地域住民の意思がなかなか地方行政に反映されないという不満が蔓延している。

2.そこで最近は、地域住民により近いところで予算や制度を決めていくことを通じて、住民の意思がもっと反映されるべきであるという世論が高まっている。

3.この世論を受けて、具体的には国から県へ、県から市への権限の移譲が行なわれつつあり、政令指定都市の増加や中核市(全国で37市)への昇格運動が盛んに行なわれている。

*宇都宮市は平成8年に中核市の指定を受けて、県が実施していた保健所などの業務を主管することとなった。

4.また地方の独自財源を摸索する最近の動きもこの流れに沿ったもので、東京都の考えた外形標準課税の一種である「銀行税」や「ホテル税」、山田杉並区長が導入した「レジ袋税」などが実際に動き出している。

メリット―

1.地域住民の意思が反映された行政、地域の実情にあった行政、地域毎の特徴のある行政を実現することが出来る。

デメリット―

1.地方行政に携わるものの能力や人材の不足で、移譲された権限を消化しきれず、行政に支障をきたす場合がある。

2.権限が移譲されても国や県からの直接の財政援助がないために、地方の持ち出しが増えることがある。

*中核市となった宇都宮市は栃木県から保健所業務を引き継ぐこととなったが、市の新たな財政負担は年間約2億円増加した。

3.地方があちこちで独自財源を導入すると、税制が地域によって異なることとなり、行政手続きが煩雑になったり、いわゆる境界問題が発生する可能性がある。

*「レジ袋税」の導入によって同じ買い物をしても、一本の道を隔てた杉並区よりも世田谷区の方が安くなり、買い物客が世田谷に流れるといった現象が発生しがちだ。

改善点―

1.地方の自立のためにも、地方自治体の独自財源を出来るだけ許容することが肝心である。但し国としては独自財源の許容範囲や徴収方法など基本方針を示すことによって、無用な混乱や煩わしさをなくす配慮が必要である。

2.地方自治体に委譲した権限が適切に発揮されるには、人材の育成や確保が重要である。

3.地方への権限移譲を遂行する過程において、特に県の役割やサイズが中途半端である。現在の衆議院選挙の地域ブロックをベースとした「道州制」の導入と、全国を300程度のコミュニティにまとめることを念頭に置いた市町村合併を、勢力的に進めるべきである。


(4)事前承認から事後チェックの行政へ

変化と原因―

1.民間の企業活動の複雑化やIT化による情報の共有により、中央や地方の行政が民間企業の活動を適正化する目的で、事前にチェックすることが不可能になったり、その必要性が薄くなる傾向にある。

2.民間の自由な発想や活動が重要視されたり、「自己責任」の思想が着実に浸透してきたことにより、事前のチェックは必要最小限にして、事後の状況や結果を厳しくチェックする傾向が高まっている。

メリット―

1.民間の創意工夫や活力が助長される。

2.行政の事務量が軽減され、行政の肥大化に歯止めがかけられる。

デメリット―

1.民間企業に全責任が負わされ、常に倒産のリスクを持つことになる。

2.国の経済運営に対する行政の責任が不明確となる。

改善点―

1.事後チェックのシステムを確立して、公正な評価を行ない、その結果が企業活動にきちんとフィードバックするようにする。


(5)結果の平等から機会の平等へ

変化と原因―

1.「結果の平等」を政治や行政が保障しようとすると、膨大なコストや負担がかかるとともに、企業や個人の努力のインセンティブを奪い、社会主義が被った社会の非効率性を再現することとなる。

2.社会や経済の活力を維持するためには、「機会の平等」を保障してスタートラインを同じにすることが望ましい。

メリット―

1.行政のコスト削減につながり、財政の健全化に資する。

2.機会の平等は人々の努力を促す結果、社会全体の生産性が向上する。

デメリット―

1.弱者切り捨て、あるいはエリート優遇との批判がある。

改善点―

1.弱者救済のためのセーフティーネットを、一定程度用意しておく必要がある。


(6)男性中心社会から男女共同参画社会へ

変化と原因―

1.女性の自己実現が経済的・社会的に容易になり、共働き世帯が増加しつつある。

2.マスコミや行政の男女共同参画社会実現に向けてのキャンペーンの結果、女性の社会進出という傾向が定着しつつある。

3.以上のような現象が高まるとともに、女性の政治意識が高まり、女性の地位向上のための政治的活動が展開されはじめている。

*選択的夫婦別姓制度の実現を目指した国会の動きや、経済統計の基礎を男性の収入のみで成り立つ家庭(いわゆる専業主婦という捉え方)から、共働き家庭にシフトしようとする動きは、その典型である。

メリット―

1.男女が力を合わせることによって、日本社会全体に新たな活力が出る。

2.女性の社会進出によって、新たな労働力が経済活動に参入して、日本経済の国内総生産を拡大することになる。

デメリット―

1.深刻化している少子化傾向に、一層の拍車がかかる可能性がある。

2.「専業主婦」の地位が相対的に低く見られる傾向になる。

改善点―

1.女性が仕事を持ちながら安心して子育てが出来るよう、職場近接の託児所の整備や、産休や育児休業制度を利用しやすいような環境を作ることが重要となる。夫の育児休業制度の利用率を向上させることも効果的である。

2.出産や育児休業によって、女性の職場における昇進が不利にならないような配慮をすべきである。


Coffee Break X

11月22日は筆者の誕生日であり、JFKの暗殺された日。

 今から39年前の1963年11月22日は、ジョン・F・ケネディ(JFK)、アメリカ大統領が、遊説先のダラスで暗殺された日である。私が10才の誕生日を迎え、その翌朝(アメリカ時間は22日)、太平洋を挟んだ日米間で衛生中継が初めて行われた日でもあった。
 衛星中継受信のお祝いムードも突然吹き飛び、「残念ですが、大変悲しいニュースをお知らせしなければなりません。」と番組は重苦しいナレーションからスタートした。オズワルドという犯人はほどなく捕まり、FBIが真相究明に乗り出した途端、別の人物に犯人は暗殺され、捜査は難航を極めることとなった。暗殺の背景にはアメリカの右翼的組織や兵器産業が関与したとされる情報もあったが、全ては闇の中に葬り去られた。
 ケネディ大統領の魅力は、日本でも歌手の故・坂本九さんがいわゆる「ケネディ・カット」に挑戦したように、その容姿をはじめとする政治的スタイル全体に及んだ。アメリカ国内では共和党のニクソン候補と渡り合った「TVディベート」の出来映えが、大統領選挙の主導権を奪ったとの神話さえ作り上げた。
 1961年1月21日の大統領就任演説では、多くのアメリカ国民を唸らせる名演説を行なった。その代表的フレーズは―

Do not ask what the country do for you,ask what you can do for your country.
―諸君は国家が何をしてくれるのかを問うのではなく、諸君が国家に何が出来るかを問いなさい。―

という、あまりにも有名な言葉である。
 ケネディ大統領は在任中に、1960年代に人類を月に送りこむことを公約し、死後6年の1969年に実現している。しかし一方では、在任中にベトナム戦争への介入を自ら決定してもいる。まさにケネディ大統領は第二次世界大戦後のアメリカの良き時代の大統領の典型であったが、その光と影を最も鮮明に表現した大統領であったともいえる。

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