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日本国憲法の見直しに関する私の所見

2004・5・28
衆議院議員 船田 元
1.総論
 日本国憲法が制定されてから既に57年が経過しているが、国民の間では今日まで2つの議論が厳しく対立していた。ひとつは現行憲法が戦後のGHQによる占領下において押しつけられたものであり、一日も早く自らの憲法を作らなければならないとする議論(押しつけ憲法論)。もうひとつは平和主義をはじめ現行憲法は人類の理想を高らかに謳い上げたものであり、指一本触れてはいけないとする議論(不磨の大典論)である。
 私は戦後生まれであり、現行憲法の素晴らしさを学校教育の中で繰り返し教え込まれたひとりである。したがって感覚的に押しつけ憲法論に与みすることは出来ず、既に国民の間に定着し、世界に誇りうる憲法であると認識している。しかしながら同時に、不磨の大典として神棚にまつり上げるべきものではなく、国民生活をより良くするための道具として、不断に見直しをすべきものと考える。
 憲法が制定されてからの57年間に、日本国内も国際情勢も著しく変化している。国内的には戦後の混乱期を経て世界に例をみない高度経済成長を経験し、現在はバブル経済崩壊後のデフレ経済に今なお悩まされ続けている。個人の権利に対する認識も飛躍的に向上したが、現在では公共の利益や国益と衝突するケースも少なくない。一方国際的には、東西冷戦構造の崩壊に伴う地域紛争の多発化防止、さらには国際テロとの闘いなど、我が国の国際社会における役割を果たすことについて、現行憲法はきちんと準備をしていない。このように世の中の変化に憲法が追いつけない状態、言い換えれば長い間着替えない一張羅と同様、あちこちに綻びが出たり、汚れが付いてしまったとも言える。いわゆる「憲法古着論」が私のスタンスであり、そろそろ新調の服に着替える時期が到来しつつある。
 このような観点に立って、現行憲法のどこをどのように変更すべきか、私の考えを以下に述べてみたい。

2.前文
1.
2.
全体的に翻訳調を改め、平易な日本語で表現する。
長いセンテンスは出来るだけ避け、次のポイントを踏まえながら簡潔に表現する。
a、

b、


c、
国民主権、基本的人権の尊重、平和主義の理念は、日本国民の長い歴史と尊い犠牲ののちに獲得されたものであり、将来に向けてもしっかりと受け継がれなければならない。
平和主義については、ただ希求するだけで平和が実現されるという受動的考えではなく、世界の人々と協力し合いながら積極的に創り出すべきことを明記する。このことを通じてはじめて「国際社会において名誉ある地位を占め」ることが可能になる。
日本は優れた文化・伝統を持ち、家族やコミュニティの絆を大切にしてきた。これらをしっかりと継承していくとともに、その土台の上に立って公徳心(パブリックマインド)、愛国心、自己責任をわきまえた自律的市民となることを目指す。

3.第1章 ―天皇―
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3.
.象徴天皇制については改正する必要はない。また、あらためて元首を持ち出す必要もない。
国事行為と私的行為の中間として、天皇家にまつわる祭祀や国民的行事へのご出席などを幅広く天皇の公的行為として認め、「国民統合の象徴」についての機能を高める必要がある。
皇位継承については従来通り法律に委ねるべきだが、天皇家の現状と男女共同参画社会の進展を踏まえて、女性天皇を認める方向を示す。

4.第2章 ―戦争の放棄―
1.
2.
3.
表題を「戦争の放棄と国際協力」に変える。
現行9条第1項は、我が国の平和憲法のシンボルであり、そのまま存置する。
第2項は削除して、次の3つの項を追加する。
a、



b、

c、
個別的自衛権を実行する、実力部隊としての自衛隊の存在を明記する。集団的自衛権については、個別的自衛権を全うする、あるいは補完するために必要な限定的行使を認める。(具体的には日本の周辺事態における米軍への支援や、自衛隊の海外活動において、自らの周辺にいる他国部隊の防衛など)
国際社会の安全保障に関する我が国の責務をきちんと果たすため、国連などが行う平和創出活動(軍事、非軍事を含む)に積極的に参加する。
非常事態においては、法律の定めるところにより、公共の利益が個人の利益に優先する場合があることを明記する。

5.第3章 ―国民の権利及び義務―
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3.


4.
.現行憲法では国民の権利や自由が広範かつ詳細に規定され、一方義務については簡潔に3つしか書かれていないが、権利の行使は同時に義務の履行を伴うことを合わせて表現する。
「公共の福祉」の定義付けを、もっと明確に述べる。例えば個人の権利と権利がぶつかり合った場合、より多くの人々の権利を優先する場合があること、あるいは個人の利益よりも国の利益を優先する場合があることなど。
新たな権利や義務として、環境権(国民は皆な良好な環境の下で生活する権利を有すると同時に、それを守る義務を持つ)、個人のプライバシー権(国民は全て自らのプライバシーが守られる権利を有し、他人のプライバシーを守る義務を持つ)、国民の知る権利(情報アクセス権)をつけ加える。
科学技術の進歩を前提として、その果実が国民生活の向上に適切に利用できる権利と、生命倫理の遵守など、その果実を国民の幸福追及に正しく使う義務を明記する。

6.第4章 ―国会―
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4.
.一院制にすべきとの有力な議論もあるが、我が国の歴史や政治風土から鑑みて、適切な役割分担を施した二院制のメリットを生かす。
役割分担としては衆議院は予算審議中心、参議院は決算審議中心とするほか、参議院の中に会計検査院を付置することや、裁判官訴追委員会、裁判官弾劾裁判所、検察官適格審査委員会の機能を組み入れる。
現行の選挙制度を見直し、衆議院は小選挙区制度のみ、参議院は比例代表選挙のみとする。(法律に委ねるのが妥当か)
国会の役割強化と、時間的制約を盾にとった国対政治をなくすため、常会・特別会・臨時会の会期制をやめ、通年国会制へ移行させる。

7.第5章 ―内閣―
1.


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政治と国民との距離を実質的に近付けるため、首相公選制を導入する。その際、被選挙権者は国会議員に限ることで議院内閣制を維持するほか、選挙期間を一定程度設けて人気投票とならないよう配慮する。
内閣総理大臣は内閣の全てを代表する存在として、現行よりも権限を強化する。

8.第6章 ―司法―
1.

2.



3.
.最高裁判所裁判官の国民審査制度は、実質的な審査が不可能に近いことや、別途国会に裁判官訴追・弾劾制度があることを考慮して、廃止する。
今日までの最高裁は一般訴訟案件の最終審としての多忙を理由に、憲法判断を避ける傾向にあった。そこで最高裁とは別に憲法判断を専ら行う憲法裁判所を設置すべきとの有力な意見があるが、独立させるとかえって「駆け込み寺」となったり具体的な訴訟ケースとは切り離された、抽象論に陥る危険性がある。
むしろ最高裁で憲法論議が行なわれ易い環境をつくるため、最高裁の中に「憲法部」を置くか、高等裁判所の上に「特別高等裁判所」を置いて、憲法にかかわるケースかそうでないかのスクリーニングを行なうことが考えられる。

9.第7章 ―財政―
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国家財政を常に健全に保つべきことや、国民負担率をおおむね50%程度に保つべきことを明記する。
一般会計予算ばかりでなく、「第2の予算」とも呼ばれる財政投融資計画も国会の承認を受けさせる。
予算の単年度主義は、その執行に無理を生じるおそれがある。予算の一部繰り越し措置を導入すべきだが、財源の裏打ちがある場合に限り認める。
第89条の、公けの支配に属さない団体などへの公金の支出の禁止は、私立学校や一定の基準を満たすNPOなどについては除外する。これは税制上の優遇措置についても適用される。

10.第8章 ―地方自治―
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第95条の「地方特別法」の規定は実効性がないので廃止する。
「地方自治の本旨」が「住民自治」なのか「団体自治」なのか曖昧である。現状では「住民自治」に片寄り過ぎており、「団体自治」の要素をもう少し強める方向で見直しを行なう。
将来の道州制導入を前提とした条文見直しを行う。
地方分権の充実の為、地方税財源の確立を明記する。
公権力の行使に至らない、在日外国人の地方参政権の付与を明記する。

11.第9章 ―改正―
1. 各議院の総議員の3分の2から2分の1にするなど、国会の憲法改正発議要件を緩和することにより、憲法改正が繰り返し行なわれ易くする。

12.第10章 ―最高法規―
1. 第98条の1項「憲法は最高法規である」ことと2項「条約・国際法規の遵守」のいずれが優越するか曖昧である。これらを調整する必要がある。

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