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BMD共同研究開発についての提言―フェイズI―

1998・9・21

 去る8月31日、北朝鮮から発射されたテポドンミサイルが、日本海のみならず我が国上空を越えて三陸沖に弾着した。その後これは人工衛星の打ち上げ失敗であると米国により結論づけられたが、北朝鮮が日本全土を射程に入れる能力を持ったミサイルを保有したことには変わりがなく、このことは我が国と東アジアの安全にとって新たなしかも大きな脅威である。この問題においても政府部内の情報伝達が遅れたことや、米国から提案されているBMD(弾道ミサイル防衛)構想について、我が国としても真剣に検討しなけれなならないなど、数多くの教訓が与えられたが我々は当面、以下の諸点について早急な検討を加え、可及的速やかに実現すべきものと考える。

1.BMD共同研究開発への正式参加
 以前より米国から参加を要求され、我が国も昨年度より調査費を計上してきたBMD構想の研究開発に対して、日米同盟関係の信頼性を高め、日本および東アジアの平和と安全を確保するためにも、2プラス2の会談など今後の日米協議の場で可及的速やかに正式参加を表明すべきである。その際我が国は事前に安全保障会議でオーソライズすることや、両国政府間の覚え書き(MOU)など正式な取り極めをすることが望ましい。

2.「日米共同作業プロジェクト」の開始
 我が国は今後の共同技術研究計画の成果を見極めつつ、日米同盟維持コンテキストからBMD導入について政治決断しなければならないが、それまでの間に本構想にかんする様々な問題を克服し、解決に向けての提言を行うことを目的とする「日米共同作業プロジェクト」を開始すべきである。同プロジェクトは両国の関係議員や研究者、開発企業等によって構成し、来春までに中間報告を、1年以内に最終結論を出すべきである。

3.法的問題の検討
 BMD研究と導入に際しては、1969年の「宇宙の平和利用に関する国会決議」に抵触しないかどうか、またこのシステムに韓国や台湾など第三国が参加した場合に、我が国の集団的自衛権の行使とどのような関係になるのかを、精査しクリアしておく必要がある。またABM条約や東アジアにおける軍備管理との兼ね合いを検討すべきである。

4.近隣諸国への説明と理解
 中国をはじめ東アジア近隣諸国に対しては、BMD構想が純粋に防衛のためのシステムであることをきちんと説明して、我が国が本構想に参加することへの懸念を払拭するよう努力すべきである。

5.我が国の防衛システム全体の見直し
 BMDを我が国が本格的に導入する場合、それを運用する部隊を陸海空いずれの自衛隊に所属させるか、あるいはそれらとは別の組織とするかなど、既存の防衛システムの中での位置づけや、防衛力整備計画全体に与える影響を十分検討しておく必要がある。また導入までに数兆円と見込まれる費用については、既存の防衛費とは別枠で対応すべきである。

6.政府部内の情報伝達システムの改善
 米国や在日米軍、BMD関連センサー等からもたらされる安保上の情報が、自衛隊の情報通信システムを通じて政府部内に円滑に伝達され、政府トップの迅速かつ的確な意志決定につながるよう、ハード・ソフト両面で高度に整備された情報伝達システムを基盤とする危機管理体制を早急に整備すべきである。

7.費用対効果や技術上の総合的検討
 BMD開発と導入までの間に、我々はその費用対効果を専門的、技術的知見に基づいて、客観的に判断しなければならない。その際は、米国からの要請と制約は何か、防衛庁や民間企業など国内からの要請は何か、日本として何を開発・保有し何を購入するか、既存の技術や装備で対応出来るか否かなど、国益に照らして総合的に検討する必要がある。

8.BMDの段階的配備について
 BMDを導入することが決定された場合に、システム全体を一挙に配備するよりも、我が国の安全保障の実状を勘案した上で、段階的な配備をすることが現実的である。たとえば我が国周辺の比較的広い海域が有効に使えることと、陸上のサイトが狭いことを考慮して今後は先ずLEAP(海上発射で高空を狙うもの)やPAC−3(陸上発射で低空を狙うもの)の配備を優先すべきだ。THAAD(陸上発射で高空を狙うもの)は費用負担が過重な上、配備のために広い用地取得を必要とするので、実現に向けては多くの困難が予想されるという専門家の意見がある。

9.センサー衛生の所有について
 BMD構想のうち衛生搭載のミサイル発射センサーには、発射準備などの兆候を事前にキャッチする低軌道の情報収集衛星(偵察衛星)、発射そのものをキャッチして弾着点を予測する高軌道の早期警戒衛星(静止衛星)の2種類がある。その両方の衛生からの情報はどちらも迎撃にとって必要不可欠であり、しかも一機の衛星で両方の機能を持たせることは出来ない。我が国は将来的にこれらの衛星を所有して独自の運用を目指すべきである。

10.センサー衛星からの情報処理について
 センサー衛星から得られる情報(Information)は専門家に解析されてはじめて意味のある情報(Intelligence)となり得るが、この解析システムの運用には数百人単位のアナリストを養成し配置させる必要がある。したがってこの分野で圧倒的優位を保つ米国との連携が必須であるとともに、それらの衛星が稼働するまでの間は、日米間の情報連絡及び情報分析体制をより緊密化させ、ミサイルに関する円滑な情報伝達の実現を担保すべきである。

11.日米間の技術障壁の解消
 日米間のBMD共同研究開発によって得られた技術は、両国が平等に所有・利用されすべきであって、その趣旨をきちんと盛り込んだ日米間の取り極めをすべきである。また両国の民間企業同士で自由な情報交換と交渉が行われる環境を作るべきである。

12.日米同盟に基づく抑止機能の強化
 BMDシステムの本格的導入に至るまでの相当の期間、我が国は米軍と共に周辺海空域における共同偵察、哨戒など情報収集活動の強化、在日米軍と防衛庁施設の相互使用など、日米共同運用体制の強化を図るべきである。また今年中に日米安保ガイドライン関連法の成立を図るとともに、従来からの有事法制研究をさらに進めて、日米同盟に基づく抑止機能を一層強化しておくべきである。

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