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第三部 外交を変える

第十一章 新しいアジア政策を考える

国民一人一人が外交の主人公に

  同心円の最も外側にあるのが、アジア・太平洋地域である。私は、この地域における対日感情はかなり好意的に変わってきたと思う。しかしながら、この地域に対しても日本が単独で外交的なイニシアティブをとるのは得策ではない。
  アメリカがこの地域で関心を持っているのはAPECであることは言うまでもない。アメリカはAPECを、名実ともに経済共同体にしようと考えている。NAFTA法案がアメリカ議会を通過しているので、今後は本格的に、この問題に取り組むはずだ。
  一方、日本にとって基本的に重要なことは、より広い地域で、より自由な貿易ができる条件を作り出すことである。その意味では、APECを経済共同体にすることに対して、何の異論もない。むしろ、日本はこのような構想を積極的に推進すべきだと思う。
  太平洋をまたいだ形で経済共同体ができることは、経済上も安全保障のうえでも有益なことである。
  だが、この地域をめぐっては、二つの点でアメリカと見解が対立する危険性がある。一つは、アジア・太平洋諸国の貿易自由化をめぐる問題だ。
  恐らく、アメリカは貿易の自由化を急ぐよう強く求めるに違いない。これに対して日本は、これまで自分がとってきた道を鑑みて、アメリカに同調することは難しい。どちらを選択するか、これは日本にとって難しい問題である。本音を言えば、日本としては、これらの諸国に自由化を急がせるには忍びない気持ちが強い。また、アメリカの尻馬に乗って自由化を急がせれば、これらの国はどう反応するだろうか。
  やはり、日本としては、経済を含めていろいろな分野で政策的な対話を積み上げながら、共通の認識を徐々に作り上げたいところだ。この姿勢に対してアメリカはどう反応するだろうか。
  二つ目の問題は、アジア・太平洋地域はすでに工業化がある水準まで進んでおり、内需の拡大が進行している。私は、この水準まではかなりの国が達していると思う。したがって、地域として自律的に発展を持続する力を持っている。
  こうなると、アメリカや日本だけでなく、ヨーロッパ諸国にとっても魅力ある地域となる。遅かれ早かれ、ヨーロッパ諸国も参入してくるに違いない。その結果、どうなるだろうか。 
  各国は、自分にとって好都合な経済システムや社会システムを、アジア・太平洋諸国に対して押しつけにかかるだろう。アメリカはアメリカの、ヨーロッパはヨーロッパの、そして日本は日本のシステムをアジア市場に押しつけようとするのである。こうなると、問題は単なる市場シェアの競争ではなくなってくる。
  日本とアメリカとの間で存在するシステムの違いによる摩擦が、そのままアジア・太平洋市場でも再現される危険性があるわけである。
  もし、こうなったとき、日本はどう対応するか。もちろん、この場合も、日本は日本の主張を通し、アメリカはアメリカの主張を通そうとする。日米自動車協議どころの話ではなくなることも想定される。
  その場合でも、最優先すべきことは、日米の同盟関係の枠組みを守ることであると私は思う。そのためにはどうするか。
  複眼的な関係を日米間で構築しておくのである。単に、単独の問題で角を突き合わせるのではなく、個別問題に関する交渉とは別に基本問題に関する話し合いの場が常に持たれているとか、政府間の公式な交渉から政府レベルの非公式な交流や民間レベルの交流にいたるまで、さまざまなレベルでさまざまな問題について日頃から話し合っておく必要がある。
  そういう意味でも、私は民間の交流に大きな期待を寄せている。
  文字どおり、「人民の人民による人民のための政治」を、外交の場でも実現するのである。ますます複雑化し、錯綜する国際社会にあっては、もはや政府任せでは限界がある。国民一人一人の力が今こそ求められている、と私は確信する。
  今ほど、国民が主人公となる政治が求められている時はない。

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