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第二部 経済・社会を変える

第八章 活力ある社会をつくる

老人介護は公的支援が原則


  しかし、今後となると、さらに大きな問題がある。老人の問題と少子化の問題である。
  寝たきりの状態にあるお年寄りは、平成二年度現在、全国で約七十万人、六十五歳以上人口の約四・六パーセントにのぼるという。平成十二年には約一千万人に達するという推計もある。
  ところが、「寝たきり老人」という言葉は日本にだけしかない言葉だという。つまり、日本では介護の必要なお年寄りを寝かせたままにしておく傾向があるが、福祉の発達した先進国では、寝たきりの状態に放置しておかないので、そもそも寝たきり老人という概念が存在しないということになる。
  また、痴呆性老人の数は平成二年度において全国で約百万人(六十五歳以上人口の約六・七パーセント)、平成十二年度には約百五十万人に達すると推計されている。
  これらの「寝たきり」、「痴呆症」という状態は、介護が必要な老人ということだが、その介護のシステムが適切に行われれば、事態は必ずしも悲劇的にならないですむ問題だろう。
  従来、高齢者の介護は家庭のみの負担で行われる傾向があった。しかし、事態は変化しつつある。介護を必要とする高齢者がそもそも増加しつつあるし、女性の社会進出が増加し、家庭内の介護をする人手が減ってきた。したがって、高齢者の介護についても社会的に援助する必要が増大している。
  このため厚生省は、「高齢者保健福祉推進十カ年戦略」(ゴールドプラン)を実施して、寝たきり老人をゼロにする計画を立てている。このために家庭を訪問し介護を行うホームヘルパー、特別養護老人ホームに短期滞在するショートステイ、日帰り介護サービスを受けるデイサービスなどのプログラムも組み込まれている。
  ただし、ここで考えておかなければならないのは、こうした対策の財源である。
  最近の財政事情の悪化などを考えて、民間の力を利用した福祉政策を強調する人々がいる。寝たきり老人や痴呆性老人の介護についても、一般の疾病の場合の特別治療費や入院費用、休業保障と同じ扱いで、民間の保険で賄えばよいという議論である。
  しかし私は、老人介護の問題は、やはり公的な機関が扱うべきものだとおもう。その理由は二つある。
  第一は、すでに介護を要する人が二百万人もいるのだから、この人たちに対する手当としては、民間の保険、民間の介護者の出現を待っていては間に合わない。第二に、次のような事情がある。
  ある老人ホームの経営者は、「有料老人ホームなどの商売ほど経済合理性に反するものはない。投資額は大きく、介護は完璧にやれば儲からない」と語っている。もし、老人介護ビジネスが儲かるなら、すでに相当の業者が出現しているはずであろうが、そうではない。
  老人介護が営利事業として成立しにくいのは、厚生省の分類では「社会福祉」に入っていないが、弱者救済の問題だからである。これは本人だけが弱者ということではなく、たまたまそういう老人のいる家庭も、突然、ハンディキャップを背負った弱者の立場に追い込まれる。
  こうした弱者を対象に営利事業が成り立つはずがない。公的に支援すべきだ。
  老人介護を公的に支援することは、努力もしない人々に結果の平等を保証することではなく、やむなく弱者の立場に立たされた人々を救済して、ほかの人々と同じ条件で競争に参加できるようにするという意味で、機会の平等を保証することなのである。したがって私は、老人介護を民間の利益事業に任せるのではなく、国の責任で支援すべきだと思う。
  そういう意味でも、老人介護の福祉政策は今後の大きな課題である。

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