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第一部 政治を変える

第三章 しなやかでタフな社会の構築

個人の社会参加が作るしなやか社会に


  最近の総理府が発表した「国民生活に関する意識調査」によると、現在の生活に満足していると答えた者が全体の七十二・七パーセントであることが分かった。これまでの調査では、「満足」と答えた人の比率は、景気のよしあしに比例して上下していたが、今回は、平成大不況と呼ばれるほど悪い経済状態のまっただ中で行われた。それなのに、満足派が大きく伸びて、過去最高を記録した。
  これは恐らく、バブル崩壊による大不況によって、これ以上の生活向上が当面は望めそうもないと悟り、現状を改めて見回したとき、十分すぎるほどモノに囲まれた生活を確認したからではないだろうか。
  私たちは、自分の趣味に合わせてコメの銘柄を選び、何足もの靴を買い、洋服と合わせてその日の靴を選ぶことができる。消費生活においては、選択する自由を確保しているのである。その点では、満足であるに違いない。
  しかしながら、精神的充実感をも含めた満足感はどうであろうか。かつて『清貧の思想』という本がベストセラーになったことがある。この現象は、モノに囲まれているのになぜか充実した人生を送れていない、何か物足りなさ感じている、という不満の表れであろう。
  衣食足りて礼節を知るといわれる。モノに対して現在も将来も不安はないと確信するとき、人はもう一段高いレベルの生活を求める。モノを個別に単品で選択するのではなく、自分の生活設計の下にそれぞれを組み合わせるという選択の仕方である。言い替えれば、さまざまなモノやサービスの消費の仕方をとおして自分自身を描きあげる、ということだ。
  若者が、「それは私のポリシーです」と言ったり、「こだわり」や「ライフスタイル」などの言葉がはやるのは、日本でも、人々の気持ちがその方向に向かいつつあることを示している。平成大不況のなかで過去最高の人々が「満足」と答えたのは、そういった、もう一段高いレベルの満足を目指す動きが、一時的に足踏みしたといえないだろうか。
  ところで、もう一段高い満足を得るには、自分の哲学、世界観、価値観が確立していなければならない。最近、職場以外で自分自身のアイデンティティを確かめようとしたり、「自分探し」を始める人々が目立つようになったのは、そのための模索であると思う。『清貧の思想』ブームも、その一つだった。
  しかし、人間であるかぎり、その模索が自分自身の内部や私生活の場面で続けられるかぎり自ずと限界がある、と私は思う。社会とのつながりができて初めて自分の世界観は確立し、自分探しの旅も完結するのではないだろうか。
  ところが現在の日本人は、どのようにして自分が社会に参加していることを実感できるか分からないでいる。その理由は、何でも「お上」に依存してきたからだ。このため、個人として自立できていないばかりか、社会も、国家との境界線がはっきりしない。国家と社会が未分化なのである。すなわち、タテ割行政のため、中央政府から市民生活の隅々まで各分野別に串刺し状態になっており、どこから国家であり、どこから地方行政であり、どこから市民社会なのか、その区別が極めて曖昧でほとんど境界がない。
  このため、いっそう、日本人には社会が見えにくくなっている。したがって、社会と国家にはっきりとした境界をつくる必要がある。そのためにも、タテ割行政の日本型システムを変え、国家、地方行政それぞれに明確なコアをつくり、境界線をはっきりと描く必要がある。
  すなわち、複眼国家の建設が急がれるのだ。
  そのためには、逆説的ではあるが、国家の最高意思決定機関を強化し、国家としての機能を強めなければならない。国家が機能を強化すればするほど、国家の輪郭が明確になり、市民社会の輪郭も明確になってくるのである。
  個人主義的改革を旗印とする政党が政権を握り、強力なリーダーシップで日本型システムを変革し、日本列島に多様な政治・行政のコアができ、複眼国家が実現したとき、日本社会は、しなやかで強靭な社会になっていると私は確信する。
  そこでは、自立した個人が、自分の価値観や世界観をもち、自分の考えで自分の人生を選び取っている。社会のどこかが破綻しても、社会全体が動揺することなく、いつの間にか、破綻した社会が担っていた機能を周辺の社会が肩代わりする。
  そういう社会がこの日本に生まれるよう微力を尽くすのが、若輩ながら国会に送り込まれた私の、政治家としての責務であると思うのである。

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