司会者―続きまして講演の方に移らせていただきます。本日は慶應義塾大学経済学部教授であります竹中平蔵先生をお迎えしてのご講演です。テーマは「日本経済再生のシナリオ」です。竹中先生は皆さんもよくご存知かと思いますので、プロフィールは省略させていただきます。それでは竹中先生よろしくお願いいたします。(拍手)
竹中―ご紹介を頂きました竹中平蔵です。今日は大変立派な席にお招きいただいて皆様や尊敬する船田先生の前でお話できることを大変光栄に思っております。皆さんも日本経済について様々なお考えをお持ちかと思います。経済学者の立場から、日本経済について問題提起していきたいと思います。皆さんの実感に合わせて、批判もしくは納得をしていただきたいと思います。
本日私が申し上げたいことはある意味で一言で尽きるのかもしれません。「我々は本当に革命の経済の中に入っている」と。そして「逃げずにきちんと向かい合っていこう」と・また革命の時代であるからこそ、船田先生のようなリーダーになれる人にがんばっていただきたいと思います。
経済のことを語るにあたって、私の体験談を交えていきたいと思います。実は今朝も総理官邸で「IT戦略会議」がありました。ここではメンバーは必ずアイウエオ順に座ることになっているのです。一度所得順でも面白いと思ったのですが。(笑)アイウエオ順に並びますと私の手前は孫(正義)さんがきます。次にトヨタの長社長がきます。孫さんと長さんの間だなわけです。その孫さんが今年1月にあげられていた強烈な数字です。世界の資産家ランキング。世界一のお金持ちはどなたかご存知ですよね。ビル・ゲイツ。パソコンの基本ソフト、ウインドウズを作ったビル・ゲイツが1位。孫さんは言いました。「やあ、僕はまだ2番目なんだよ。」まだ2番目というのは1番になるつもりなんですね。(笑)
このランキングによりますと、世界のお金持ちを上から5人上げていくと、なんと5人のうち4人が30代もしくは40そこそこなんです。孫さんもビル・ゲイツも43歳。みんな私よりも若い。すごいことだと思いませんか?そして1月の時点では、5番目に日本人がもう1人名を連ねていました。光通信の重田さんです。もちろんランキングは変わっていますが、この簡単な数字だけで二つのことを謙虚に認めなければなりません。第一に世界の経済の中で革命が行われているということです。革命でなければ、5人のうち4人が30もしくは40代ではならないでしょう。
第二に日本もまたその真っ只中にいるということ。ちゃんと日本人が2人もいます。その革命の経済の中で日本経済は良くなっているのでしょうか、悪くなっているのでしょうか。私はこういう風に聞かれたら、次のように答えることにしているんです。今、日本という国の中に異なる2つの国があるということです。1つは競争する日本です。世界のグローバルな市場と直結して日々競争圧力にさらされている。自動車や家電といったほとんどの業種がこれです。しかし、競争しているからこそ生産性もあがって利益も上がるのです。この中にIT革命という神風が吹いてきたのだと思います。
ちょうど2年前、小渕総理のもとで「経済戦力会議」という組織が作られました。当時どん底にあった日本経済をどのように再生するかということで、アサヒビール名誉会長の樋口廣太郎さんを議長にして住人の委員が集められました。私もその委員として参加したのが、わずか2年前なんです。そして2年後の今日、日本にIT革命がこれほど大きな姿で現れてくるだろうとは、恥ずかしながら十人の委員の誰も予想できませんでした。可能性があるっていうのはわかっていました。でもこんなに早いとは思わなかった。だからこそ、私は予想以上の神風なんだと思います。この競争する日本を見る限りドラマチックに変わっています。
しかし、日本にはもう1つ国があるのです。競争しない日本。つまり、政府の保護と規制とばら撒きにすがっている。皆さんもうおわかりですね。実はこの日本経済には競争する部分としない部分、活力のある部分とない部分が、まだまだせめぎあっているのです。神風が吹いた分明るさが見えてきましたが、まだまだだと思います。
今、堺屋太一さんが経済企画庁長官として発言されています。彼の発言を分析していくと、日本経済の明暗というのが見事に示されていると思います。1年半前、日本経済が最も悪いときに堺屋さんはこう言いました。「日本経済に変化の胎動が見られる。」2つの部分がせめぎあっているわけです。彼はこうも言いました。「日本経済は午前4時だ。夜明け前が一番くらい。」これからは明るくなりそうなイメージですよね。私はそのセリフの後、堺屋さんをちょっとひやかしたことがあります。「堺屋さん、午前4時ですか。2時間待てば夜が明けるんですか。」とききましたら「夜は明けるんだけれども雨が降っているかもしれないよね。」といわれました。(笑)まさにせめぎあっていることを見事に表現しています。
われわれは革命の経済の中に入ってきました。しかし競争するダイナミックな部分とそれから逃れようとしている部分がまだある。この構造を是非頭の中に入れておいてください。ではいったい日本経済はどのようになってきたのか。少しかいつまんでレビューしたいと思います。
簡単なキーワードで示しましょう。まず最初のキーワード。「2パーセント」です。日本経済、今まだ不良債権などの様々なバブルの後遺症があります。しかしこの後遺症が消えたならば、その時点で日本経済は2パーセント強の成長ができるのです。2パーセント成長ができるのはいい経済です。なぜなら、2パーセントずつわれわれの所得が上がるわけです。物質的生活水準が上がる。すると、35年後にはわれわれ国民の所得は2倍になる。親から子供へといく間に日本人の生活水準が2倍になる。なかなかいい経済だと思いませんか?単純な算数です。2パーセント成長するというのは、毎年所得が1.02倍になるということ。1.02倍の35条は2になるのです。20世紀のアメリカの経済はこの2パーセント成長経済だったのです。だからアメリカンドリームという言葉も自然と受け入れられたのでしょう。われわれ今抱えている不良債権のような問題を克服すれば、2パーセント成長に戻れる。戻るべき道はまずここなんです。