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憲法改正についての考え方

衆議院議員 船田 元

○憲法改正の必要性
 制定後五十年以上経過した日本国憲法は、国際社会や国内情勢の変化、またそれに伴う国民の意識の変化によって、現実に合わない部分が多くなってきている。またこれまで我々は憲法解釈を自在に拡大したり変えることによって、何とかその寿命を延ばしてきた。しかし最早、解釈をもってしても対応できない、すなわち解釈の限界を超えるケースが増えたばかりでなく、憲法そのものの安定性に黄色信号が点灯し始めた感がある。
 憲法改正は避けて通れない現実の政治問題になったが、一部にはここまで綻びが出てしまったからには、部分修正では間に合わず、全文を書き変えるべきだとの意見もある。しかし私は現行憲法の基本的理念である「平和主義」「基本的人権の尊重」など、普遍的価値観を変更しないとの姿勢を明確にし、憲法改正に対するアレルギーを出来るだけ少なくするためにも、部分修正という手法を採用する方が現実的であると思う。なお改正個所については第九条がクローズアップされ過ぎているが、基本的には全ての条項について、改正するか否かの真剣な検討が加えられるべきである。

○集団安全保障概念の導入
 第九条では、「個別自衛権の行使」と自衛隊の存在が許容されると解釈されるが、あまりにも安定性に欠け、分かりにくい。したがってこれらが素直に読み取れるような条文改正が必要だ。「集団自衛権の行使」については、いまなお国民的合意が形成されているとは言い難いが、憲法前文の「国際社会の中で名誉ある地位を占めたいと思ふ。」 との精神を具体化させる意味でも、国連の行なう国際的な平和創出活動に対して自衛隊がフルに参加できるよう、「集団安全保障」の概念をきちんと書き込むべきである。

○新しい権利と義務の追加
 次に見直しが必要なのは国民の幅広い権利・義務規程の整備である。 ひとつは社会の変化によって、憲法制定時には考えも及ばなかった重要な国民的権利を書き込むこと。 具体的には情報公開法などによって守られるはずの「知る権利」と、その裏腹にある「個人のプライバシーを守る権利」である。 さらに高度成長期に全国各地で発生した公害問題や、 最近の地球環境問題の重要性を踏まえて、「環境権」あるいは 「良好な自然環境を享受する権利」もきちんと加える必要がある。 一方現行憲法の欠陥のひとつとして、権利に比べて義務の記述が少ないと言われている。 そこで今回の改正では、既に憲法に不充分ながら記述されている 「公共の福祉」の概念を独立させて、より具体的に書き込むほか、 徴兵制の議論とは一線を画しつつも、「国を守る義務」 という重要な概念を加えるべきではないか。

○危機管理体制の整備
 また阪神大震災などの大規模災害の発生や、テポドン騒ぎにおいて露呈した政府の危機管理能力の欠如を考えるとき、総理大臣がリーダーシップを発揮しやすいよう、内閣における権限を飛躍的に強化すべきである。またこれを根本的に実現するためには首相公選制を導入して、現在の議院内閣制から大統領制に近い政体を目指すべきである。さらに有事法制の整備とあわせて、いざと言うときに慌てて「超法規的措置」に委ねるのでなく、国家の危機に際しての「非常大権」をあらかじめ憲法に規定しておく必要がある。

○二院制のあるべき姿
 国会の構成については今後とも二院制を守るべきだが、現行制度では本来のダブルチェックという機能が有効に作用しているとは言い難い。衆議院を民意の反映とした場合、参議院は専門的意見の反映を目指し、必ずしも選挙によることなく専門各分野からの推薦によって、院を構成してもいいのではないか。あるいは衆議院を予算・法律を作成する議院に特化し、参議院を決算・評価を行なう議院に特化するなど、より明確な役割分担を明記して、二院制のダブルチェック機能を強化すべきではないか。

○NPOへの対応
 「公の支配に属さない」団体への公金の支出を禁止する条項を厳格に適用すると、現在の私学助成制度は憲法違反になりかねない。しかし今後のNPO、NGOの活躍やその育成の必要性を視野に入れると、これらへの公金の支出は一定の要件のもとに、憲法上もきちんと是認されるような見直しを行なうべきである。

○改正手続き
 
最後に、現行憲法の改正手続きが極めて厳格なために、それが五十年間も行なわれず、社会の変化に対応できなくなってしまったことを考慮して、現実的に改正可能な手続きに改めるべきである。

 私は以上のような問題意識と方向性を持って、これから展開されるであろう憲法調査会での議論に積極的に参加し、憲法改正に対する国民の健全な意識とコンセンサスを形成していきたいと考える。

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