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(サンデー毎日 97-09-28号) 「橋本首相は官僚ではなく政治家と会うべきです」 三十九歳一カ月の最年少入閣記録を持つ船田氏。 一度は自民党を飛び出したが、今は自民党の「若きベテラン」として、二十一世紀をにらんで機をうかがう。 閉塞状況にある政界を、どう打ち破ろうとしているのか。 ウォルフレン氏との議論は白熱した。 ウォルフレン 橋本首相は官僚としか話をしないと聞きました。橋本さんのベースとなる情報は「改革」の対象になっている官僚自身からということですから、橋本さんが様々な局面で本当に決断しているのかどうか、かなりクエスチョンマークです。機会があれば、ぜひ橋本首相におっしゃって下さい。 船田 橋本首相は「六つの改革」を掲げ、大変がんばっています。ただ、ご指摘のように、一日の動静を見ると、首相が「話を聞きたいから来てくれ」ということで官僚以外が接触している機会は非常に少ない。政治家と会う時は政治家側がある目的を持っている。いわゆる陳情です。私は、今、世の中がどうなっているか、自民党内がどうなっているかを、フィルターをかけないでお伝えすることを心掛けているつもりです。今の話は多分、私から直接伝わるでしょう。 ウォルフレン 私の言葉を橋本首相にお伝えいただけるような方にお会いしたのは初めてです(笑)。ところで、現在の日本の政治状況はあまり冴えません。その背景を、どうお考えでしょうか。 船田 やはり一つは新党ですね。新進党があり、そして民主党ができ、また太陽党ができました。しかし、やはり立案した政策を具体的にブレイクダウンし、どうすればその政策が成し遂げられるかという手続きをきちんと決めていく、あるいは、その政策をできるだけ多くの国民に理解をさせ、あるいは支持を受けるまで説得するという、政党としての基本的な機能が新党に欠けている。自民党にも欠けているところがありますが、自民党には官僚のサポートがありますから。 ウォルフレン しかし、もはや日本国民は何を言われても信じないようになってきています。これが最近の日本の政治における大きな変化だと思っています。 船田 なぜ信じられなくなったかというと、新党を作る時に様々な公約を唱えていたわけですが、その全部、あるいはほとんどが今日に至っても実現できていない。その中で自民党は、公約として言ったことと実際に実現していることが、他の政党よりは多い。 だから、まだ信用は自民党には残っています。 ウォルフレン おっしゃることに、少し基本的な間違いがあるのではないでしょうか。自民党はほとんど常に政権をとってきたのですから、他の党が公約を守る度合いが低かったとおっしゃるのはフェアではありません。それは、あまり説得力がないのではないでしょうか。 船田 要するに、どれだけ国民に信頼感を与えるかということです。今、政権を取っているのは実質、自民党です。ですから、自民党は公約を述べ、その公約がどこまで実現したかを厳しく評価される。しかし野党は公約が実現できなかったという直接の責任を問われることはない。公約の出し方や公約を実現する手段をきちんと示すことが、国民の信頼を得て票を増やし、人数を増やし、そして与党になることにつながると思うのです。政権担当能力に対する信頼性をつなぎとめていないところに、今の野党の弱さがあります。 ウォルフレン それは幻想ではないでしょうか。有権者が自民党により信頼を置いているとは、とても思えません。ただ、同じ自民党でも個人レベルで何人かに信頼が集まっていることはあると思います。政党に関わらず、個人の資質が注目されている。例えば菅直人さんや、小泉純一郎さんのような方。ですから、なぜ船田先生があえて自民党に復党なさったのか理解しかねます。もしかしたら、お母さんのお乳が恋しくなったのかもしれませんが……。 船田 私は新生党、新進党で努力してきましたが、やはり政党として政策を作って実行していく上での手続きが非常に乱暴である。そういう点を私は大変残念に思った。それを直そうと何度も忠告しましたが、すべて執行部批判であると。鳩山由紀夫さんと政党をつくろうとしましたが、思うように組織が作れなかった。そして結局、自民党に戻ったわけです。 ウォルフレン はい。 船田 もちろん今の政治では、政治家個人、しかも著名な人気のある政治家の個性なりに国民が感動し、それによって政治が動く部分もあるかもしれません。しかし、それは単発的と言いますか、短期的な影響に終わってしまう。例えば菅直人さんも今、民主党の中でかなり苦労されている。かつて羽田孜先生も大変人気がありましたが、現在、太陽党のなかで大変苦労されている。やはり政治家として個人の努力も大事ですが、自分が所属する政党が何をするのか、あるいはどのくらいの力を持っているかということ も、同時に考えなければいけない。 ウォルフレン 自民党の政権復帰直前、ほとんど自民党は分解寸前でしたが、社会党(現社民党)のお蔭で自民党は政権に復帰し、生き残ることができた。自民党が続いているのは、別に自民党が標榜している政治的なアイデアとか、理想があるからということは全くない。政治的なアイデア、理想という観点から言えば、自民党はもう死んでいると思います。 船田 大変厳しいご指摘ですが、私はまだまだ死んではいないと思います。だから私は自民党に戻ったんですよね。自民党にいる魅力が、もし何か思想的に、あるいは政治理念として何もないのだとしたら、もうそれは自民党は死に体だし、当然、自民党は分解するだろうと思います。便利だから自民党にいるというだけではなくて、やはり日本人のアイデンティティを高めることを政治の立場で実現していける。そういう自民党の思想、自民党の基本理念を、これからますます強調し、それをわれわれが強く認識していかないと、自民党はおかしくなる。 ウォルフレン そうだとすれば、官僚の力について自民党としての立場はどういうものですか。自民党としては、どういう立場を取るべきだとお考えでしょうか。 船田 私の考える官僚コントロールの方法としては、やはり官僚の人事権を政治家側が握ることが大事だろうと思います。 ウォルフレン 私もそう思っていますが、具体的にどういう提案をするべきだとお考えでしょうか。 船田 それはまず、われわれの総裁である橋本首相が率先して実践する必要があると思います。首相の権限は弱い弱いとは言われていますが、使いようによっては極めて大きな力がある。橋本首相は官僚の話しか聞かないという、先ほどのご指摘がありましたが、首相が官僚に一切会わない、政治家としか会いませんよ、というくらいの気持ちを持って……実際にそうすべきだと、私は思っています。 ウォルフレン 日本には政治家や官僚の他にも、いい考えや分析能力を持っている優秀な人がいます。にも関わらず、なぜ首相が活用なさっていないのか全く分かりません。官僚の方にある、特にトップの人事権を取り戻したいと本当に思っているのであれば、自民党にいてはできない。自民党にいるのは間違いだと思うのですが。 船田 いや、私は自民党にいても、それはできると思います。むしろ自民党の体質全部を変えるのは、すぐには無理としても、まず橋本首相が決断すればいいわけです。もちろん、私自身も決断しなければいけない。ただ、自民党から離れなければその決断ができないとは思っていません。自民党の中にいても十分可能です。 例えば、歴代首相の中でも、中曽根首相は研究者や学者、財界のリーダーをうまく使ったと思います。もちろん、ややギラギラしたところがありますから、そういう点でのバイアスはマスコミにかかってしまいましたが、冷静に判断して、中曽根元首相が専門家やブレーンをうまく使ったことは見習うべきだと思っております。 ウォルフレン おっしゃる通りです。中曽根さんは野心的な方でしたけれど、「自分こそ真の首相になるんだ」という意気込みでなさったのだと思います。しかし、最終的には官僚に取り囲まれてしまった。ただ、半年ぐらい前に中曽根さんに会ってお話を伺った時、突然エキサイトなさって、「実は官僚は、自分が必要としていた情報を何もくれなかった」とおっしゃっていました。 船田 大変、示唆に富んだお話ですよね。官僚が政治家を逆にコントロールする要諦、ポイントは、やはり情報を出さないこと。本当の情報を政治家に与えないことなんです。制度として官僚の一部と政治家をうまく組み合わせて、官僚がその政治家にとって本当に必要な情報、あるいは正しい情報を官僚の立場として政治家にきちんと流すといいますか、知らしめるシステムは、やっぱり大事だなと思っております。 ウォルフレン ただ、政治家にアドバイスを与える官僚が、どこかの省に帰属していると、結局、省益の問題が出てきてしまいます。ですから新たな機関を設け、どこの省とも関係ない、助言を与えるシステムをつくる必要がある。それができるのは政治のイニシアチブです。 船田 そうですね。ただ、政治家側に日本の官僚に対抗し得る、比肩し得るスタッフを集めるというのは大変難しい。優秀な人材はみんな官僚として吸収されてしまっていますからね。何らかの機関を作り、人材を官僚の側から政治家の側に戻すことは、大変大事だなと思っています。 ウォルフレン 政治家が大蔵省を牛耳っていけるとお考えですか。 船田 私が経企庁長官当時、政府経済見通しを発表する際に「三・〇から三・三%の間で選んで下さい」と言われました。枢要なポストは大蔵省からの出向で、シナリオを決めていたのは大蔵省の役人でした。やはり大蔵省をいくつかの塊に分けるべきで、相当なスピードでやらねばならないと思います。 ウォルフレン ところで、もし大蔵大臣であれば、何をなさりたいですか。 船田 金融、歳入、歳出のそれぞれの部署の幹部を常に置いておいて、どうすれば日本の経済に良い決定が下せるか、三者の間で議論をさせる。それが対立すれば、とことんまで議論させたい。その三者の間でコントロールすることが、非常に大事だと思いますね。現在の制度では、大臣は金融、歳入、歳出の役割を使い分け、それぞれにいい顔をしていれば利害がぶつからないで共存してしまう。それが大蔵省の権限を肥大化させている理由にもなっていますから。 ウォルフレン その点は分かりますが、大臣に確実に必要な情報が届けられるように、どのように担保なさるのでしょうか。官僚は非常に巧みに、必要な情報を敢えて出さないことができる人たちです。 船田 それは手を突っ込んで「ここを出せ」と言っても、その所在すらわからないという状況もあると思いますから、そこはやはり制度的に何かするというのは、かなり難しいとは思います。リーダーシップを働かせて官僚を説得し、また大臣は官僚からの全幅の信頼をつなぎ止めて、そこで「あの大臣に本当のデータを出しても悪用はしない。いい方向に利用してくれるだろう」という意識を植えつけるしかないのではないかと思いますけれどもね。 ウォルフレン 最後の方が分からない……。有権者の代表として選ばれた人たちが最終的に閣僚になるわけですし、官僚は公僕であるわけですから、別に大臣が自ら自分のことを官僚に信頼してもらう必要もないと思うのですが。 船田 でも、今おっしゃったような理屈は、逆に建前になってしまう。やはり現実はそうではない。だから政治家の側から官僚をうまくコントロールする、あるいは官僚に信頼されるために、大臣として努力しなければいけないというのが、まだ現状なのです。だからそこは、政治家側がまず努力しなければいかんな、ということを私は言いたかっ たのです。 ウォルフレン もちろんそうです。ただ、この状況が続くと、とても危険な状態になってしまいます。というのも、元大蔵大臣が「本当に重要な局面で何も知らされなかった」とおっしゃっていましたから。だからこそ、構造的な問題があるわけで、その構造問題の根は、みなさが予想している以上に深い。 船田 そうですね。 ウォルフレン この議論は船田さんの勝ちです。ご活躍をお祈りしていますけれども、ぜひ自民党から離党して下さい(笑)。 船田 分かりました……と言っちゃいけないんだ(笑)。私は自民党をいったん抜けて戻った人間ですから、もう自民党と、日本的にいえば心中するぐらいの気持ちで、当面は頑張らないと。党内での信用がなくなりますからね。 構成/本誌・赤松 幸司 |
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