はじめのマイオピニオン - my opinion -
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敵基地攻撃能力の保有について

  先週、河野防衛大臣が唐突に、秋田と山口に配備を予定していたイージス・アショアの導入断念を発表した。政府は間髪入れず国家安全保障会議(NSC)を開催し、代替策を検討することが決まった。そのもっとも有力な手段が、「敵基地攻撃能力」の保有である。話のシナリオがあらかじめ決まっていたのではと思うほど、不思議なくらいに手際が良すぎると感じるのは、私だけではあるまい。

  この考え方は、昭和30年の内閣委員会における国会答弁が最初である。当時の鳩山首相の答弁を、なんと祖父の船田中・防衛庁長官が代読している。奇しき縁である。引用すると「わが国に対して急迫不正の侵害が行われ、その侵害の手段としてわが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨とするところだというふうには、どうしても考えられないと思うのです。そういう場合には、そのような攻撃を防ぐのに万やむを得ない必要最小限度の措置をとること、例えば、誘導弾などによる攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾などの基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能であるというべきものと思います。」【1956(昭和31)年2月29日 衆議院内閣委員会において。鳩山総理答弁船田防衛庁長官代読】 

 確かに法理的には、かろうじて自衛の範囲に収まるとも思えるが、私は以下の理由により、この案件は極めて慎重に議論しなければならないと考える。  少しおさらいになるが、現行憲法において許容される武力行使とは、個別自衛権の行使(専守防衛)のみであり、これを実行する際の武器の使用には、厳格な3要件が課せられている。
①我が国に対する急迫不正の侵害の発生
②武器使用以外に適当な手段がない
③武器使用は必要最小限度に限る
5年前の平和安全法の制定の際は、「我が国に対する直接の侵害は発生していないが、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、そのことによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」にも武力行使を認めるとした。武力行使の3要件をリニューアルして、集団的自衛権に少し踏み出したとも見える解釈変更で、現行憲法との整合性を図った。

  今回の「敵基地攻撃能力」の保有と行使を、従来の武器使用の3要件に照らして検討すると、相手国が我が国に向けたミサイルに燃料を補填し、今まさに発射させようとしているところを先制攻撃しなければ、敵基地攻撃の意味はなく、必然的に要件①の「我が国に対する急迫不正の侵害の発生」以前の武力行使となる。したがって要件の拡大解釈あるいは見直しが必要となる。 

 次に要件②の「武器使用以外に適切な他の手段がない」という点だが、我が国が直接敵基地を叩かなくても、米軍に代わりに叩いてもらうシナリオの方が可能性は高い。またその方が日米安保条約が定める役割分担、すなわちアメリカは「矛」、日本は「盾」に徹することに沿うものだ。敵基地攻撃能力という「矛」を我が国が持つことは、この役割分担を大きく変更することであり、日米安保体制の再定義が必要となるだろう。
  要件③の「必要最小限の武器使用」についてはどうか。現在の自衛隊の装備を持ってしても、未だ敵基地攻撃の能力を保有するに至っていないが、今後空自のF15戦闘機やF35A戦闘機に搭載する対艦・対地用ミサイルの装備や、トマホークに匹敵する巡航ミサイル導入など、射程距離500キロから900キロの「飛び道具」を装備しようとしている。このような敵基地攻撃能力を保有するための攻撃的兵器を装備するには、「攻撃的兵器の保有は自衛のための最少限度を超える」としてきた政府見解を変更する必要がある。実際にこれを使用するか、その可能性が高いということになると、要件③も見直さざるを得なくなるのではないか。

  なお敵基地攻撃を可能にするには、武器の保有だけでは済まない。情報収集、分析、偵察、レーダー撹乱などの能力の向上が必要となる。日本独自の早期警戒衛星の導入や電子偵察機の増勢、敵の防空能力を無力化させる統合監視目標攻撃レーダー・システムの整備が欠かせない。これらのことを考えると、相当米軍の力を借りなければならないだろう。だからこそ本来は米軍の攻撃能力に委ねるべき分野なのである。

  そして最後に、我が国が敵基地攻撃能力を持つということは、例えそれが北朝鮮のみを想定していると対外的に説明しても、中国やロシアの対日懸念が増大することは必死であり、一定の外交的摩擦を覚悟しなければならない。我々は敵基地攻撃の功罪や費用対効果をきちんと分析した上で、導入の可否を決めるべきである。そして導入となれば武器使用の3要件の見直しにとどまらず、現行憲法9条の解釈変更や改憲も視野に入れながら、慎重にも慎重な議論を行わなければならない。

[ 2020.06.29 ]